感情の均衡を見つけるためのユングセラピー
ユングセラピーまたはユングの分析は、精神の暗い部分に光を当て、自己実現を可能にしようとするものです。これは集中的で完全な心理的セラピーです。分析者と患者の関係が近いことで、患者の意識的な部分と無意識的な部分を合わせることができるのです。これにより、より本当の自分と本当の感情の均衡を具体化できます。
カール・ユングと彼の遺産は、本当に多くの人々を魅了し、鼓舞し、感激させてきました。分析心理学の父は、フロイトの概念を次の段階へと持って行った精神学者であり分析者であるというだけではありません。ユングはまた、科学、人類学、占星学、芸術、宗教、そして夢といったような分野についてもエキスパートだったのです。
これらの分野をばらばらに見るのではなく、彼はそれを心理学にあてはめ、それをより深く、より統一された、より機能的なものにしました。こうすることで、無意識の説明が発展し、宇宙全体の説明も深まったのです。彼は全てを方法論という傘の中に持ってきました。私たちのいざこさ、ニーズ、衝動などが、いい精神状態になることを難しくしているのです。
ユングセラピストは多くない
しかし、ユングセラピーを行っている人は多くないということを言っておかなければならないでしょう。このタイプのセラピーは、より一般的なアプローチのものと比べるとあまり広く使われていません。認知行動アプローチや、人本主義的なものでさえ、これよりも知られています。この意味では、ユングの功績、そしてユングセラピーは、彼の貢献の独創性にも関わらず、ある程度非体系的で複雑だと考えられてきたのです。
「サイコセラピストは、それぞれの患者やケースを先例のない、ユニークで、素晴らしく、例外的なものと見なければならない。そうして初めて真実に近づくことができるのだ。」
―カール・ユング―
しかし、バークレー大学のような学校では、70年代からユング心理学が教えられています。またここ10年で、特に南アメリカやヨーロッパの一部の国において、このタイプのセラピーの復活が見られるようになってきました。例えばスペインには「スペイン分析心理学会」があり、ユングの遺産を広げ、未来のユングセラピストを育てようとしているのです。
ですので、心理ケアの分野の中で、ユングセラピーは居場所を見つけ出しつつあるのです。これはまた、よりよく認知されるに値するものでもあります。
ユングとユングセラピー
ユングセラピーの目的とは?
ユングセラピーは、私たちの無意識と「合意」することにより、人の精神の統合を進めることを目的にした精神療法の特別な形です。まず理解しておかなければならないことは、この精神療法の枠組みでは、私たち皆が「精神基質」を持っているということです。これは、とても複雑な無意識のエネルギーで、私たちの態度や考え方、他の人とのかかわり方などに影響します。
ユングセラピストの目標は、これらの無意識の要素について私たちに気づかせることで、無意識との調和を生み出すことです。こうすることで、私たちはユングが「個性化のプロセス」と呼んだものを促すことができるのです。つまり、このような精神分析を行うことで、私たちはニーズと達成、過去と現在の間に調和をもたらすことができます。私たち自身が自分を定義づけるような真の成熟性に到達することができるのです。これにより、自由を感じ、成長することが可能になります。
ユングセラピーが役に立つのはどんな時、またはどんな状況?
ユングセラピーは、うつや不安、または依存症の可能性のある状態などのとても複雑なプロセスを理解し、それに対処するのに役立つ可能性があります。
この精神療法のアプローチは、セラピストの助けを借りて、患者が経験しなければならないプロセスに基づいています。3つのとても具体的な段階を経験することになります。それは、自己認識、変化、そして実現の3つです。このアプローチによって、私たちの精神の最も暗く、アクセスできない部分には何があるのかが見えてきて、それを変化させることができるのです。
このアプローチは、人生における以下のような状況の時に役に立ちます。
- 落胆し、無気力になり、不安定だと感じているような時。
- 理由が何なのかよくわからないまま、何かに怒りや不満を感じている時。
- 恋愛やそのほかの人間関係で問題を抱えている時。
- 人生の新しい段階が始まり、また同じ間違いを犯すのではないかと恐れている時。
- 「迷子」になったように感じ、どの方向へ行ったらいいのか、どんな意思決定をしたらいいのかわからない時。
- 不幸せしか生まないような態度をとって「行き詰って」いると感じている時。
- 芸術家や創造性に関する仕事をしている人で、新しいアイディアがなかなか思いつかない時。
- 特定の夢について理解する必要がある人。
セラピーの目標
以前指摘したように、ユング分析は特別な形態の精神療法で、患者が自分の無意識な側面と個人的に「調和」するというものです。それはいったいどういうことなのでしょうか? 基本的には、このセラピーの戦略は、私たちが自分の精神の探検家になるということです。私たちはこれを、この分野の専門家と一緒に行います。彼らが、なぜ特定のエネルギーや無意識の「存在」が私たちの行動に影響するのかについて理解するのを助けてくれるのです。こうするために、ユングセラピーではとても具体的な一連の側面を分析していきます。
それは、以下のようなものです。
1.自分の無意識に取り組むこと
フロイトの精神分析では、無意識は私たちの押し込められた性的衝動や願望の大部分が入っている単なる空間、としか考えられていません。しかし、カール・ユングはこういった説明とは全く違う見方をしています。彼は、私たちの心の奥深くには、内容や象徴、原型や意味でできた完全なデザインがあると主張しました。そしてこれらすべてに光を当てなければならないと言ったのです。こうすることで、またこれらすべての無意識の素材に取り組むために、ユングセラピーは二つのよく定義された段階を使用します。
- 私たちの無意識のデザインを理解すること。夢、芸術、会話、イマジネーションなどの分析など、とても具体的な戦略を通して、セラピストが無意識の中にある一つ一つの象徴と原型を特定し、理解します。しかし、患者も積極的に関わらなければなりません。これは、こういった象徴の大部分が、その人にとってとても特別な意味を持っているかもしれないからです。それらは問題を覆っているエネルギーのようなものなのです。
- 私たちの無意識の事柄が、私たちの意識的な生活にどれだけ影響があるかを理解すること。二つ目のセラピーの目的は、私たちの中に無意識的に住んでいるものが、私たちが気持ちいいと感じたり、満たされていると感じる能力をどれだけ変えているかを理解することです。
2.夢の解釈
ユング理論には、私たちの夢がどんなものかについてとても具体的なビジョンがあります。夢の世界はエゴと直接的な関係があります。それはまるでその人の自己認識、ニーズ、恐怖、限界などが明らかになる重要な側面が現れる、シアターのようなものなのです。フロイトは夢は特定の押し込められたニーズを満たすためのものでしかないと言いました。しかしユング理論では、夢はときに批判的な声として働くことがあると考えます。私たちの心を開き、意識的な世界に新しい選択肢を引き出す道になるのです。そうすることで、私たちはより豊かな人生を送ることができるのです。
ですので、意識的な世界と無意識の世界をフロイトの理論のように二つの別々の存在と考えるのではなく、ユング理論ではそれを一つのものとしてとらえます。私たちの精神のこれらの二つの部分を統合して初めて、私たちは自由を感じることができるのです。
3.コンプレックスの特定
私たちは皆コンプレックスを持っていますが、健全でないのはコンプレックスが「私たちを持っている」状態です。そうすると人生における自発性、機会、そして発展と成長のためのポテンシャルが失われてしまいます。
ユングは、コンプレックスは私たちが受け継いだ理想と、私たちの個人的な経験に関係していると言いました。これらの考えを使い、また分析心理学の具体的なアプローチによると、私たちは以下のものを識別することができます。
- クロイソス・コンプレックス:優越感を感じるために、お金や権力を持ちたいという欲求。
- カイン・コンプレックス:嫉妬に関連するもの。
- アキレス・コンプレックス:自分の脆弱性を隠したいというニーズ。
- ブルニルダ・コンプレックス:パートナーをヒーローとみなす。
- ヘロストラトス・コンプレックス:コンスタントな注目を求める。
- アンチゴーヌ・コンプレックス:ケアをされ守られたいという欲求。
4.性格のタイプ
ユングセラピーで最も広く使われている診断ツールは、間違いなくMBTIでしょう。これは、イザベル・ブリッグス・マイヤーズと、キャサリン・クック・ブリッグスによって作成されました。この測定法はユングの「心理学的類型論」に基づいて作られており、以下のような目的を持っています。
- 内向性と外向性の間のどのあたりにいるかを理解する。
- 私たちが自分の環境やそれぞれの中に保存している情報をどう処理するかを知る。
- 自分の感情や判断などに基づいて、私たちがどのように意思決定をしているか知る。
- 私たちの好み、感情のニーズ、仕事の好みなどについて発見する。
ユングセラピーで使われるテクニックとは?
ユングが彼の理論を標準化し、彼の臨床実践や方法論を明確に定義することを常に拒否していたというのは興味深いことです。ですので、ユングセラピーの後継者は彼の記事や本、論文に頼らざるを得なかったのです。それらを使って、今日も維持されているある合意に達することができました。
ですので、現在あるのは専門家と患者の弁証法的な関係を通して発展した一連のテクニックになります。この関係性の中には、親密さ、信頼、パートナー感覚がなければなりません。同じように、ユングも彼が記述の中で以下のようなことを達成すべきだということを明確にしています。
「セラピストが、常に患者の性格を尊重した弁証法的な手続きが必要不可欠である。患者は尊厳を持って扱われるべきであり、私たちは先入観を捨てなければならない。精神療法的な変化を起こすために、私たちはこの発見と発達の複雑な旅路で患者に寄り添わなければならない。医者やセラピストによってこの個性化の中で患者の心に残された「精神医学的アレルゲン」があってはならないのだ。」
患者を尊重し、患者の信頼を獲得・維持することが、ユングセラピーにおいては欠かせません。こうすることで初めて、私たちはいいパートナーシップを作り、以下のようなテクニックを実行することができるのです。
会話セラピー
ユングセラピーは、とりわけ会話に基づいています。患者は安全で快適だと感じなければなりません。そうして初めて、夢の分析やその他のクリエイティブな方法などの他のテクニックを実行することができるのです。そして、患者とセラピストの両者が無意識の世界を理解し、変化というゴールへ向かって共に旅をすることができます。
夢の分析
夢を分析し理解するためには、この話題についてのユングの本を1冊買えばよいと思うかもしれません。ところがそうはいきません。ユングセラピストは、患者の夢に現れる象徴や原型が、その人の性格や個人的な状況に具体的に関係しているということがわかっています。
ですので、これはとてもデリケートで、極めて慎重になるべきであり、そして深く意義深いプロセスなのです。
連想語
連想語テストはユングセラピーでよく使われる方法です。これは、セラピストが言葉やフレーズ、考えなどを言い、患者は最初に心に浮かんだ言葉を言うというものです。反応の速さや遅さが、特定の無意識の抵抗やコンプレックスを明らかにするのです。
クリエイティブなアクティビティ
ユングセラピストは患者の性格によって有効だと思われる、さまざまなクリエイティブなアクティビティのタイプを決めます。しかし、絵画やダンス、夢日記をつけることなどのシンプルなアクティビティでも、素晴らしい方法なのです。
表現やイマジネーション、内省、そして無意識の世界を意識的な世界にもたらすような活動が理想的です。
ユングセラピーは効果的か?
ここまでくると、このタイプの精神療法アプローチにとても惹かれているのではないでしょうか。しかし、興味を持ったところで、次のような疑問が生まれます。これは本当に効くのだろうか? 私たちの多くが認知行動的精神療法のさまざまな障害に対する有効性についてよく知っています。その疑問への答えは、「イエス」です。
ユングセラピーは精神的なストレスに対処するのに役に立ちます。私たちの人生でよりたくさんの満足を得て、仕事のパフォーマンスや家族、恋愛などの人間関係を改善するのにも役立ちます。また、自分を知ることにもなり、個人的な危機を乗り越えるのにも役立つのです。
2013年にユングセラピーを支持した研究が発表されました。その中で、90のセッションにおいて、セラピーが成功したと主張しています。このタイプの精神療法アプローチが自分のニーズに合っていると感じ、ユングセラピストと協力することに抵抗が無いと思うなら、一歩を踏み出すのを怖がるべきではありません。それはとても価値のある発見の旅になることでしょう。
参考文献
Hall H, Norby L. (1968). Fundamentals of Jung’s Psychology. Buenos Aires
PsiqueHocheimer W (2004). The Psychotherapy of Jung, Barcelona
Herderfordham, M (1999). Technique in Jungian Analysis (The Library of Analytical Psychology), Boston.
Karnac Jung, C. G. (1981). Archetypes and Collective Unconscious. Barcelona, Paidos.
Jung, C.G (1993). Structure and Dynamics of the Psyche. Editorial Paidós, Buenos Aires.
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- Hall H, Norby L. (1968). Fundamentals of Jung’s Psychology. Buenos Aires
- PsiqueHocheimer W (2004). The Psychotherapy of Jung, Barcelona
- Herderfordham, M (1999). Technique in Jungian Analysis (The Library of Analytical Psychology), Boston.
- Karnac Jung, C. G. (1981). Archetypes and Collective Unconscious. Barcelona, Paidos.
- Jung, C.G (1993). Structure and Dynamics of the Psyche. Editorial Paidós, Buenos Aires.