ムーサ神話:創造的なインスピレーションの源
ムーサ神話は、ギリシア神話の中でも特に古い分類のものです。この女神たちは、多くの人にとって芸術や科学といった様々な分野におけるインスピレーションの源であり続けています。その証拠に実は、「music(ミュージック)」や「museum(ミュージアム)」といった言葉は「Musa(ムーサ)」が語源となっているのです。
様々なバージョンのムーサ神話がありますが、その中で彼女たちはアポローンという音楽や芸術の神の付き添いとして描かれています。アポローンは全てのムーサたちとそれぞれ異なる時期に恋愛関係を持ちました。これにより、彼らの間には数多くの子どもが生まれることになります。
神話によれば、ムーサたちは活発で陽気な女性たちで、人間たちの耳にクリエイティブなアイディアを囁くために地球に降りてきたそうです。ムーサの助言を聞くと必ず、それまでに何も創造したことがなかったにも関わらず、その人物は賞賛に値するような素晴らしい作品を作り上げることができた、とされています。
ムーサ神話:起源
ムーサ神話では、ムーサたちはオリンポスの神ゼウスと、記憶の象徴であるティーターン族のムネーモシュネーとの間の娘たちだとされています。ムネーモシュネーは大地の母ガイアと、天国を象徴するウーラノスの娘です。ムネーモシュネーとゼウスは9日間を共に過ごし、一晩ごとに1柱のムーサが生まれたのだとする説があります。
地下の世界にはムネーモシュネーという名の川があり、レーテーという川の隣を流れている、と神話的物語で伝えられています。ほとんどの人間は、死亡した後新たな生き物として転生する前にレーテー川の水を飲むよう諭されるのですが、その理由は、この川の水には前世を忘れさせ、新たなスタートを切れるようにする力があったためです。
一方で、ムーサ神話によれば、死者の中でも選ばれしごく少数の人々がムネーモシュネー川の水を飲まされます。彼らは次の人生でも前世のことを覚えたまま、先見を持った予言者になることができたようです。
9柱のムーサたち
もっと多くのムーサたちについて語っている物語もありますが、古典的な歴史では、ムーサは9柱存在しており、それぞれが知識や芸術的創造に関する何らかの分野を司っているとされています。神話によれば、適切なムーサから訪問された芸術家は、自らの作品を仕上げるための素晴らしいひらめきを突然得ることができたそうです。以下が、9柱のムーサたちです。
- カリオペー、あるいは「美しい声を持つムーサ」。弁舌や詩歌の女神で、ローレルのリースを身につけ、竪琴を持っています。アポローンの愛人であり、オルペウスとラレモとレーソスの母親です。
- クレイオー、あるいは「祝福を与えるムーサ」。歴史の女神で、寛容さや勝利の記憶を生かしておくことが役目です。トランペットと開いた本を持っています。
- エラトー、あるいは「愛を有するムーサ」。叙情詩の女神で、頭にバラの冠をかぶり、ツィターという楽器を手にしています。また、アポローンの愛人で、タミュリスの母です。
- エウテルペー、あるいは「非常に嬉しそうなムーサ」。音楽、特にフルートの解釈の女神です。花の冠が彼女の象徴となっています。
- メルポメネー、あるいは「メロディアスなムーサ」。悲劇の女神、もしくは悲劇的物語や文芸執筆の女神です。豪華に着飾り、悲しげな仮面を身につけています。
- ポリュムニアー、あるいは「多くの賛歌を持つムーサ」。神聖な存在にまつわる歌や賛歌の女神です。彼女は常に白い服装をしています。
- タレイア、あるいは「お祭り好きなムーサ」。喜劇や牧歌詩の女神で、宴会やお祭りのホスト役を務めていました。
- テルプシコラー、あるいは「踊りに喜びを見出すムーサ」。舞踊や合唱の女神で、花輪を身につけています。アポローンとの間に息子をもうけました。
- ウーラニアー、あるいは「天上のムーサ」。天文学や教えること、そして精密科学の女神です。地球儀とコンパスを持っています。
ムーサたちの存在感
ムーサ神話はギリシア人にとって非常に重要なものなのですが、実は神々の物語にはそれほど頻繁に登場しません。しかし、数少ない登場シーンでは単なる脇役として描かれています。それにもかかわらず、そういった物語の主人公たちは自身がやらねばならないこと全てに関してムーサたちからインスピレーションを得ているのです。
こんな物語も残されています。ピエリア県のピエロ王には歌の才能が豊かな9人の娘がいました。彼女たちの芸術はとても美しいものだったため、娘たちはムーサたちが暮らす地を訪れ、挑戦を挑もうと決意します。もちろん、ムーサたちはこれを受け入れました。
9人の若い女性たちが歌い始めると、全ての鳥たちが一斉に静かになりました。その歌声があまりにも美しかったので、自然界は静寂に包まれたのです。そして次はムーサたちの番です。彼女たちが歌い始めると、岩までもが涙を流しました。挑戦者を打ち破ったムーサたちは、傲慢さへの罰として、9人の娘たちをカササギの姿に変えてしまったそうです。
引用された全ての情報源は、品質、信頼性、時代性、および妥当性を確保するために、私たちのチームによって綿密に審査されました。この記事の参考文献は、学術的または科学的に正確で信頼性があると考えられています。
Otto, W. F. (2005). Las musas y el origen divino del canto y del habla (Vol. 39). Siruela.