スロー・リビング:幸せを掴むための一つの方法

30 9月, 2020
人生を少しの間一時停止し、ただその瞬間を楽しめたらいいのに、と願ったことはこれまでにどれくらいあったでしょうか?もちろんそのようなことは不可能ですが、今現在を生きると言う考え方を中心としたライフスタイルが一つ存在します。スロー・リビングの世界へようこそ。

これまでに、自分は現代的な生活のめまぐるしさに囚われている、と感じたことはどれくらいありましたか?おそらくその回数はご自身が望んでいたよりも多かったことでしょう。光の速さで生活を送るということはつまり、生きる価値のある人生を形作る、たくさんの些細な場面やニュアンス、感覚、細かな点を見逃しているということを意味します。

スロー・リビング運動の登場は1980年代にまで遡ります。それ以降、このライフスタイルを選択する人はどんどん増えていきました。では、この運動はいったいどんなものなのでしょうか?そしてこの生活様式を取り入れることでどんなメリットを得られるのでしょうか?読み進めて詳しく学んでいきましょう。

今日の世界では、「スロー」という言葉はよくネガティブな意味合いを含み、「怠け者」や「怠惰」といった言葉と密接に関連しています。しかし今こそその全てを変えるべき時です。スロー・リビングというのは悪い生き方や無責任な生き方を指しているわけではありません。これは現在のことに注意を向け、全ての瞬間を楽しむことに焦点を当てるという意味なのです。

近年、気付かぬうちに私たちの生活は驚くべきペースで動いています。このことと、アメリカ合衆国の人口の約18%が慢性不安に苦しんでいるという事実とは無関係ではないでしょう。さらに、ストレスを抱える人の大部分はやがて不安障害やうつ病といった情動障害を発症します。物事が悪い形で進んできたことに気づいた時には、もう手遅れになっている場合がほとんどです。

“私たちを取り巻く世界には秩序は存在しない。その代わりに存在している混沌が求める要件に、私たちは自分自身を順応させなければならないのだ”

カート・ヴォネガット

スロー・リビング 幸せを掴む

トップスピードで生活することによる弊害

私たちは成長とともに「急ぐこと」の意味を知り、それを当たり前のこととして受け入れていきます。子どもの頃私たちは、学校に遅れないように走ることや、休み時間が終わって授業に遅れないように校庭から急いで戻ることを覚えましたよね。放課後には習い事のために急いで学校を飛び出し、宿題を早く始められるようにまたいそいそと帰宅します。生活の速度が落ちることは決してありません。素早く入浴してさっと夕飯を食べ、寝床へ向かいます。そして次の日にもまた同じことを繰り返すのです。

同様のことが大学に進んだ後も、初めての仕事を始めてからも起こります。私たちはデスクの前での生活に備えるようになります。朝は職場へ急いで駆け込み、1日の終わりにはまっすぐ自宅へ急ぎ帰って、そこで待つ次のタスクをこなすのです。それが家族に関するものであっても、レポートを仕上げることでも、家事の場合も同じです。

茹でガエルシンドローム

茹でガエルシンドロームという言葉を聞いたことはありますか?この理論は、私たちがなぜこのようなストレスフルな生活を当然のものと思っているのかを説明するのに使えるかもしれません。

もしカエルを沸騰するお湯の中に入れたとしたら、そのカエルは飛び上がって逃げようとするでしょう。しかしまず生ぬるいお湯に入れて徐々に湯の温度を上げていけば、カエルはお湯の温度に合わせて体温を変えていけるだろう、という考え方が茹でガエル理論です。温度の変化に適応し続ける忙しさのあまり、生きたまま茹でられているとは気付かないだろう、というのです。

少々残酷に聞こえるかもしれませんが、似たようなことが私たちの身にも起こっています。幼い頃から私たちは、全てが「不自然」なほど早いペースで動いていくような世界や社会に浸りきっているのです。人間もカエルのように、長い年月をかけてこのような生活を当たり前のことだと受け入れるようになっていきます。

ここで最も不安視されるのが、多くの人々がストレスを抱えて生きることをいいことだと信じていることです。ストレスのない生活では退屈してしまうだろうというのです。そのような発言に聞き覚えはありませんか?しかし、このような生活スタイルが自分のウェルビーイングに与える弊害の大きさに気付くことができた時には、もう手遅れになっている場合が多いのです。それはもうすでにそのダメージを受けた後だからです。

“人生とは、そのほかの計画を立てている間に私たちの身にふりかかるもののことだ”

-アレン・サウンダース-

スロー・リビングとその効能

スロー・リビング運動は、食べ物(この運動自体の起源はスローフードでした)や性生活、教育からエクササイズやレジャー、旅行、ファッションやもちろん仕事に至るまで、生活のあらゆる側面で取り入れることができます。

ここで奨励されているのは、「マインドフル・イーティング」を実践して自然食品を食べること、合理的かつ実用的にテクノロジーを使用すること、地元の小さなビジネスを支援すること、そして使い捨て文化の不健全なサイクルを打ち破り、それが他国にもたらすダメージへの対抗運動を行うことなどです。

この暮らし方は、小さな物事を楽しめるようになり、それらにしかるべき関心を向けさせてくれるようなよりリラックスしたアプローチを促進します。これ以上に望むことなどあるでしょうか?まだ素早くて月並みな物事や、時間と労力をかけられる何かが必要ですか?

理論上だけなら簡単そうに思えますよね?だからこそ、スロー・リビング運動では落ち着いたペースでの生活を始める方法について一連の推奨事項を提案しているのです。まず一つ目のルールは、辛抱強さを持つことです。生涯続けてきた習慣をたった一晩で変えることは不可能なのです。

スロー・リビング:幸せを掴むためのもう一つの方法

スロー・リビングの世界に浸ろう

1. スロー・リビングなモーニング・ルーティーン

朝はこれまでより数分間早めに起きましょう。やってみる価値はあります、信じてやってみてください!そしてシャワーを浴び、仕事や勉強に気をとられることなく美味しい朝食を食べましょう。可能であれば散歩に出かけ、周囲の世界に目を向けてみてください。散歩ができないようであれば、公共交通機関での移動中は携帯電話を触らないようにしてみてください。

2. より少ない持ち物とともに生きる

大量消費主義を拒絶し、本当に必要なものだけを買うようにしましょう。一瞬立ち止まって周りを見渡せばすぐに、それほどたくさんのモノは必要でないということに気づけるはずです。「七日間ルール」を実践してみてください。これは、何かを買いたいと思っても買う前に一週間待ってみるというものです。七日経ってもやっぱり必要だと思うのであれば、購入して構いません。この猶予期間はその他の選択肢を吟味する機会になりますし、別の商品と価格を比べる時間もできます。

3. 健康に生き、現在を楽しむ

私たちの生活はよく、変えることのできない過去やただの想像に過ぎない未来への恐怖に脅かされてしまいます。しかし私たちの手元にあるのは現在だけです。したがって、現在にしがみつくために全力であらゆる努力を行う必要があります。そのための方法として推奨されているのが、瞑想の実践やヨガ、また、身体と精神とを結び付け直し、「今、ここ」を生きられるよう奨励してくれるその他のアクティビティを行うことです。

4. 一日一善

おそらくみなさんが考えていることとは反対に、実は善行を行うことでその相手が受ける利益よりも自分自身が受け取れる利益の方が大きいのです。続けていけば少しずつ自然にできるようになっていきますよ。

5. グループやコミュニティの一員になる

ボランティア団体やスポーツチーム、または旅行団体まで、グループはどんなものでも構いません。ヘンリー・タジフェルが述べたように、人間とは社会的な生き物であり、特定のグループに所属することで社会的アイデンティティの形成がしやすくなるのです。さらに、グループの一員でいることで抱く情緒的な意義や自己価値は、私たちの自己概念に大きな影響を与えます。

6.  感謝の思いを記す日記をつける

毎日少しだけ時間を取り、自分の身に起きたポジティブなことを三つ書き出してみましょう。それは行動であっても思考や感情、あるいは出来事であっても構いません。最初のうちはその三つを思い浮かべる難しさにびっくりしてしまうでしょう。しかし少しずつ小さなことに感謝できるようになっていき、そういったポジティブな瞬間を自分の手で作れるようになっていくはずです。

たとえ些細なことに思えたとしても、書き出してみてください。頭に浮かぶ思考の多くは、それらよりも重要性が高いと考えられる物事に追いやられてしまいます。頭の表面の方にそれらの思考を保管しておくためには、紙に書き出すというのは非常に有効な方法です。そして気分が落ち込んでしまい、精神的に自分を引っ張り上げてくれる何かが必要な日にそのリストを見返してみましょう。この手法はうつ病の症状を抱える患者にも効果的ですし、長年染み付いた思考態度を変えるのにも良い方法です。挑戦してみてください!

7. スイッチをオフに

スロー・リビングの中でもおそらく最も難しいのがこちらです。携帯電話をサイレントモードにするか、携帯電話なしで出かけるか、あるいは可能ならば完全に電源を切ってしまってください。たった数時間の短い時間であれ、テクノロジーの奴隷でいることをやめるととてつもなく気分が良くなりますよ。

“幸せ、それは別の場所にはない、しかし、いつかではなく今この瞬間のためのこの場所にこそ存在している”

-ウォルト・ホイットマン-

スローシティ

ご覧いただいた通り、これらのガイドラインはどこに住んでいようとも実践するのがかなり簡単です。しかしそれだけではありません。驚くべきことに、実はスローシティと呼ばれる都市が世界中に存在しています。

スローシティは、人々が散歩に出て楽しんだり友人たちとおしゃべりをして気晴らしできるような場所です。アメリカでは、カリフォルニア州にあるフェアファックス、セバストポル、ソノマの三つの都市がスローシティに加入しています。

スロー・リビング運動の発端は?

この運動は1986年にイタリアで起きた運動に由来しています。発起人はカルロ・ペトリーニで、彼はアメリカから進出してきたマクドナルドの1店舗目がローマのスペイン広場にできたことにショックを受け、この概念を生み出しました。

彼はファストフードの隆盛に対抗しようとこの運動を率い、地元料理の伝統や地元の製品、そして食の楽しみ全般を守ろうとスローフード哲学を考案しました。スローフードという考え方を中心にスローリビング運動も成長していき、今や完全な人生哲学にまで膨れ上がったのです。

個人的考察

幸運なことに、私は何度か南アジアのいくつかの大都市を訪れたことがあります。そこで最初に私の目を引いたものの一つが、人々のリラックスした暮らし方でした。どこを見回しても、誰かしらが太陽の光を目一杯に浴びながらちょっとした昼寝をしているのです。バイクやベンチ、公園で寝ている人もいれば、牛の背中に乗って眠る人までいます。

彼らの生活は朝早くから始まります。ほとんどの人が慎ましく暮らしており、常にフレンドリーな笑顔や助けの手を差し伸べる準備ができています。また、仏教徒の多い地域では特に、瞑想の実践が生活の一部になっていました。彼らこそ、スロー・リビング術の真の専門家なのかもしれません。