スイスアーミーナイフ理論:心のモジュール性

スイスアーミーナイフ理論は、心は特定の活動に特化したモジュールに分けられており、脳が決められた領域で問題を解決する手助けとなるというものです。
スイスアーミーナイフ理論:心のモジュール性
Valeria Sabater

によって書かれ、確認されています。 心理学者 Valeria Sabater.

最後の更新: 21 12月, 2022

スイスアーミーナイフ理論は心のはたらきに関する、論争の的でありながらも興味深い解釈です。このモジュール説によると、人の脳は高度に専門化された’アプリケーション’から成り、特定の問題を最も効果的な方法で解決しているのだそうです。このように、人の心はまるでスイスアーミーナイフのように、特定の領域や道具の組み合わせになっているのです。

この概念はもともと1992年に人類学者ジョン・トゥービー、心理学者レダ・コスミデスによって提唱されたものです。この考え方は、知覚・認知プロセスを説明するモジュール性という概念同様、神経科学の専門家たちに厳しく批判されたことも知っておく価値があります。

ジェリー・A・フォーダーは人間の認知構造の研究に人生を捧げた哲学者です。彼は言語学、論理学、記号論、心理学、コンピュータ科学、人工知能の分野における専門家でした。これに関連する彼の著作の一つに、1983年に出版された『心のモジュール性』があります。

「我々にはすべきことがたくさんある。実際に、認知科学はこれまでほとんど、そこにどれだけの闇があるかに光を投じたにすぎないのだ。」

― ジェリー・A・フォーダー ―

スイスアーミーナイフ理論:心のモジュール性

スイスアーミーナイフ理論

スイスアーミーナイフ理論にはあらゆる専門家が同意する一面があります。フォーダー博士は、脳は、物質的で観察可能な存在として、技術の進歩とともに研究しやすくなってきていると指摘しています。しかし心の研究にはさらに曖昧で不正確な段階に入る地点があり、そこではテクノロジーがその価値を失ってしまうのです。

哲学と心理学のまん中に位置するこの理論は、人の認知プロセスを定義し、説明する独特の方法です。

スイスアーミーナイフ理論の原理についてさらに詳しく見てみましょう。

心のモジュール性

1950年、言語学者、哲学者のノーム・チョムスキーは彼の最も有名な理論を明確にし始めました。それは、言語は学習行動ではなく、機能的な、生来の能力であるという理論です。この前提はのちにフォーダー博士に影響を与えました。

  • 彼はまたチューリングの計算機モデルにも影響を受けています。心は特定のモジュールに分かれていると述べるこのアプローチの基盤を少しずつ築き上げました。
  • 彼はこれを「心理学的機能」と呼びました。こうして、まるでコンピュータ上の特有のプログラムのように、心のプロセスそれぞれが異なる専門化されたモジュールに分けられているというのです。感覚や知覚のためのモジュールがあり、決断のためのモジュール、記憶のためのモジュール、そして言語のためのモジュールがあるのです。

スイスアーミーナイフ理論の支持者

ジェリー・A・フォーダーは著書『心のモジュール性』(1983)の中で理論を発表しています。後に、トゥービーとコスミデスがフォーダーの理論を基にしてスイスアーミー理論を定義しています。

この理論は論争の的ではあるものの、多くの科学者がなお正当性を主張しています。マサチューセッツ工科大学脳・認知科学部の教授、研究者であるナンシー・カンウィッシャーもこの理論を支持しています。

彼女のTEDトークの中でも最も人気のものが2014年に行われました。このトークでは彼女はスイスアーミーナイフ理論の正当性を説明しました。実際に、この概念を支持するために彼女は複数の科学的研究を行いました。それらはthe Journal of Neuroscience誌にて発表されています。

相貌失認症

カンウィッシャー博士がマサチューセッツ工科大学で観察したことの一つに、多くの脳の領域は互いにコミュニケーションをとらないということがあります。それらは個別にはたらいているのです。

その一例に相貌失認症があります。これは、視力には問題がなくても人を認識できない症状です。患者は自分の子どもを見ることができるのに、学校へ迎えに行っても顔を認識できないのです。

この理論から分かるのは、脳をなす多くの専門化された領域は、色、形、動き、言葉などを認識する領域などの、モジュールとしてはたらくということです。

心のモジュール性理論の批評

この理論を、自然淘汰が除外されていない単純なアプローチと見る人も多くいます。この考え方では、人の振る舞いは時間の経過とともに獲得するプログラムのようなものと述べられています。それぞれのプロセスや機能は、他から独立して発展し、専門化するのです。

The PLOS Biology journal誌において発表されたある研究をはじめ、モジュール理論を受け入れるリスクが指摘されています。脳は断片的な存在ではなく、それよりもずっと複雑なものだからです。

脳のある領域は互いにコミュニケーションをとらないという事実にもかかわらず、脳は色々な専門化された個別の部分を通してはたらくわけではありません。脳はひとつの存在として情報を共有し、はたらくようにできているのです。

私たちは色々な概念、推論、プロセス、誘導を使います。したがって、私たちはずっと複雑で、魅力的で、予想がつかない存在なのです。


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  • Fodor, Jerry (1983) La modularidad de la mente. Madrid: Morata
  • Arbib, M., 1987. Modularity and interaction of brain regions underlying visuomotor coordination. In J. L. Garfield (ed.), Modularity in Knowledge Representation and Natural-Language Understanding, Cambridge, MA: MIT Press, pp. 333–363.
  • Bacáicoa Ganuza, F. (2002). La mente modular. Revista de Psicodidáctica, 13: 1-24.

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