手を使う作業が脳に優しい理由

22 11月, 2019
触ったり、感じたり、造形したり、編んだり、ガーデニングをしたり絵を描いたり…こういった全ての手を使った作業は、脳に素晴らしい効果をもたらします。ただ楽しいだけでなく、実際にエンドルフィンという物質が生成され、ストレスや不安を減らしてくれるのです。

手を使った作業は、メンタルヘルスを改善するための一つの方法です。粘土で何か作ったり、編み物をしたり形作ったり、彫刻をしたり、縫い物をしたり、ガーデニングをしたり絵を描いたりすることなどが、脳を刺激するには最高の方法なのです。また、ストレスを減らし、神経可塑性を向上させ、スキルや集中力、冷静さを高める効果もあります。

手と脳の結びつきは、人間という生き物にとっては必須の連帯であり、人の成長に欠かすことのできないポジティブなフィードバックの繰り返しを生み出します。これは人類学的にも心理学的にも何年間もの間確認されてきたことです。だからこそ、子どもたちには手を使った作業のスキルを学ばせ、運動能力の向上に働きかけることが非常に重要です。これは子どもの脳に良い効果があるのです!

しかし誰もが知っているように、私たちは大人になって自由に使える時間が少なくなると、こういった手を使ったアクティビティの楽しさを忘れてしまいます。それが仕事の一部である場合を除いて、おそらくこういった活動をする機会はほとんどないでしょう。事実、携帯電話やコンピュータの普及により、人々が手で物を書く機会はどんどん少なくなってきています。

エクササイズの効能については把握している人が多いのは事実ですが、手を使った作業についてはあまり重視されていないようです。これらは非常に多様で行いやすく、クリエイティブなポテンシャルにあふれています。また、手をアクティブに使った作業はどんなものであれ、気分を高めてくれる効果を秘めています。このことについて、もっと詳しく見ていきましょう。

手を使う作業 脳

クリエイティビティとメンタルヘルス

我々の社会では、手作業による労働がその価値を失いつつある事態にまで達してしまったと言っても過言ではありません。事務仕事やシンクタンク、マーケティング、広告、エンジニアリング、エコノミクス、テクノロジー企業…これらはみな、他のタイプのスキルよりも優先されるキャリアパスであり、ほとんどが頭脳労働です。

しかし、建築や農業、車の修理、配管工業、電気工事といった、手を使うスキルが必要とされる社会にとって欠かすことのできない仕事もあり、彼らは私たちのために問題を解決したり、人々のクオリティオブライフを向上させようと常に働いてくれています。つまり、知的な仕事も手作業がメインの仕事も、両者ともに我々の日々の生活に必須であるということです。

また、これに関する非常に興味深い見方が神経心理学の世界で形成されつつあるという点についても指摘しておくべきでしょう。知的労働が手工業よりももてはやされがちな最近の傾向は変えていかねばなりません。実際、手作業を日常生活から完全に排除してしまうのは私たち自身の本質にも背きます。

また、手を使うのは非常に健康的な行為でもあります。リッチモンド大学の神経心理学者、ケリー・ランバート博士は手動作業を行うことが、鬱のリスクの軽減にまで効果的である、と述べています。

手を使った作業とメンタルヘルス

様々な道具を作ることにより、人類は現在のような世界を獲得することができました。目と手、そして脳が知的・精神的で完璧に結びついている状態により、数多くの恩恵を得られます。では、なぜ我々は生活に不可欠なこの部分を見落としてしまうのでしょうか?

  • 一日中コンピュータの前に座っていることは、手を使った作業としてはカウントされません。また、排水溝の詰まりを取り除くなどの作業も含まれません。ここで扱うのは、それらよりも奥深い作業であり、神経連絡を用い、神経可塑性を向上させることが求められるようなものなのです。
  • どのようにそういった作業を行うことができるのでしょうか?何かを創造し、変形させるような作業を行いましょう。仕上がった時に満足感を得られるようなプロセスに取り組んでみるべきです。彫刻をしたり、粘土で何か作ったり、編み物やお絵かきをしたり、あるいはただ花を植えるだけでも、精神面に大きな肯定的刺激を与えることができます。

ケリー・ランバート博士は、著書『Lifting Depression: A Neuroscientist’s Hands-On Approach to Activating Your Brain’s Healing Power』の中で、同様の基本的な事柄に触れています。その最終目標は脳の報酬中枢を認知努力、集中力、そして作業によって得られる喜びによって活性化できるような手を使ったタスクを探し出すことです。

手を使う作業 脳

尽力、創造、そして満足感:鬱と戦うための神経化学

ここで明らかにしておきたいのが、ただ粘土細工や彫刻、あるいは編み物を習得するだけでは鬱を治すことができるわけではない、という点です。手を使った作業は、脳に化学変化を起こすための手段に過ぎず、より良い生活を送れるようになるための足がかりとなります。

これと心理療法などを組み合わせることにより、驚くほどの効果を得られる可能性があります。手作業により脳にどんなメリットを与えられるのか、さらに詳しく見ていきましょう:

  • 脳の生理的・化学的反応に変化がもたらされます。手を使った作業を行うことにより、セロトニンとエンドルフィンが放出され、コルチゾールという”ストレスホルモン”を減少させることができます。
  • また、手を使うことでニューロン間に新たな経路が作り出されるので、神経可塑性を向上できる可能性もあります。これにより、末長く脳を若く健康に保つことができるようになります。
  • ベイラー大学のロビン・ハーレー博士が説明しているように、患者にとって意義深い手作業というのは、慢性的なストレスによる悪影響への対処を助ける効果もあります。鬱と向き合う際にそれまで以上に受容的でリラックスした状態になることができるので、この点は非常に重要であると言えるでしょう。

記事を締めくくる前に、もう一つ別のポイントについてもはっきりさせておきましょう。それは、全ての手作業が効果的であるというわけではない、という点です。例えば、工場で働いていて、繰り返し同じ作業を行なっているのであれば、そこから効能を得ることはできないでしょう。カギとなるのは、好奇心や情熱を掻き立て、興味を持てるような何かを見つけることなのです。

満足感と意欲を感じられ、同時にリラックスもできるような手作業を探してみてください。ミハイ・チクセントミハイが何度も口にしている「フロー」という状態を探求してみましょう。これは、周囲の世界が停止し、自分自身と完全に調和がとれ、クリエイティブなプロセスに完璧に没頭できている状態のことです。それほど満足感を得られるような活動は少ないかもしれません。

  • Heuninckx, S., Wenderoth, L., & Swinnen, S. (2008). Systems Neuroplasticity in the Aging Brain: Recruiting Additional Neural Resources for Successful Motor Performance in Elderly Persons. Journal of Neuroscience, 28 (1) 91-99; DOI: https://doi.org/10.1523/JNEUROSCI.3300-07.2008
  • Kays, Jill L., et al. (2012). The Dynamic Brain: Neuroplasticity and Mental Health. The Journal of Nuropsychiatry and Clinical Neurosciences. https://doi.org/10.1176/appi.neuropsych.12050109
  • Lambert, Kelly (2010) Lifting Depression: A Neuroscientist’s Hands-On Approach to Activating Your Brain’s Healing Power. Basic Books.