禅の話:川を渡る

禅の話:川を渡る

最後の更新: 19 11月, 2018

これは、古いの話です。二人の弟子をかかえた禅の指導者がいました。二人の弟子は、自己中心的ではなく、規律を守るとても良い生徒です。禅を学ぶべく、何事にも一生懸命取り組みます。毎日できることはすべて行います

この禅の師は、二人の弟子に愛着について教えようとしています。愛着は、禅の思想において、苦しみにつながるものです。自分を切り離し、人は人の人生を生きるというのが、禅の教えです。自分を切り離すことこそが、平穏への道であり、幸せに不可欠なものだといいます。

「才能の法則や幸せの法則は意味がない」

-ホセ・マルティ-

弟子達は、人や物に依存せず生きられるよう、様々な修行をします。必要なもののみを食べ、時には断食も行います。それでも、弟子は喜んで、禅の教えを習得しようとします。服装もシンプルで、部屋や布団も質素なものです。これらは、自分を高めるためであり、厳しいと思うことはありませんでした

 

すべてを変えた川

ある日、この師は弟子を連れ、近くの村を訪ねます。大変貧しいこの村に、食料を届けに行くのです。弟子達は喜んでお供します。重い籠を抱えることも苦ではありません。村に着くと、全ての人に食料を与え奉仕します。

帰りは、僧院に近い森の中を歩きます。三人は美しい花や空、動物に出会いました。そして、すぐ側には川もありました。ここで、透き通る水を飲むほど幸せなことはありません。

川を渡る

三人は静かに歩き続けます。太陽を浴び、心地よい風を受けます。鳥のさえずり、植物の香りを楽しみます。しばらくすると、川に到着しました。そこには、なんと美しい女性が笑顔で立っています。

 

予期せぬこと

二人の弟子は、この美しい女性に見とれます。見たことがないような美しい女性です。二人は緊張しつつも歩を進めます。ゆっくりと、そして急ぎ足になりました。女性に見とれるあまり、つまずくこともありました。自分達が何をしているか忘れているのです

慌てた様子の二人を見た女性は、含みを持った笑みを向けます。そして、魅惑的な声で尋ねました。「川を渡らせていただけませんか?」弟子の一人は、すぐに女性を助けます。彼女を抱え、一緒に川を渡ります。女性は彼に微笑みかけ、弟子も笑顔になっています。岸の向こうに彼女を渡し、もう一人の弟子と指導者の待つ岸へと戻ります。

師はそれを見届け、三人はまた歩き続けます。待っていた弟子は、この後何が起こるのか気になっています。ところが、師は助けた弟子を見ただけで、何も言いませんでした。その後も、寺院へ到着するまで、静かに歩き続けます。

 

教え

数日が経ちました。美女を助けた弟子の不適切な行動に対し、何も言わない指導者をもう一人の弟子は理解できません。美女の誘惑に負け、師の前でなぜ彼女を助けなければならなかったのか考え続けています。そして、怒りを覚えます。

一方で、美女を助けた弟子は穏やかです。いつもの日課をこなし、もう一人の弟子の怒りに気づいてもいません。彼と師の関係も今まで通りです。あの時のできごとについて話すこともありません。弟子の怒りは膨らむばかりでした。自分の怒りに耐えられず、師に尋ねることにしました。

禅の話

「あなたを待たせ、知らない女性に川を渡らせた弟子に、なぜ何も言わないのですか?配慮に欠けたわがままをなぜ叱らないのですか?魅惑に負けた弟子に罰はないのですか?」

師は、静かに弟子を見つめ、こう言います。「彼は女性を抱え、川を渡るのを助け、向こう岸まで連れて行った。お前はそこから自分自身を切り離せていない。彼から、その女性から、そしてあの川から。」忘れられない師の言葉となりました。


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