「アベイラビリティ・バイアス」っていったい何?

21 11月, 2020
私たちはよく、頭に浮かんだ一つ目の考えを分析はおろか疑問にも思わないまま当然の事実として受け入れています。「アベイラビリティ・バイアス」と呼ばれるこの現象により、私たちは不適切な意思決定をしたり直近の経験を他の物事より重要視してしまうのです。

アベイラビリティ・バイアス(利用可能性バイアス)によって、広告が有効に機能する理由の大部分を説明することができます。何らかの商品を買う必要があるとき、私たちの頭にはテレビやソーシャルメディアで見たことのあるブランド名が浮かんできますよね。そういったブランドの中には、あまりにも有名過ぎて一般名称化しているものもあるほどです。

人は、自分たちが時折非常に単純なヒューリスティクス(発見的手法)を用いて、特に頭に最初に思い浮かんだものに応じて、行動・反応しているという事実を把握出来ていない場合があります。

例えば、最も強い毒を持つ動物は何か?という質問をされたら、おそらく私たちはヘビやクモを思い浮かべるでしょう。私たちは脳内にある全ての情報、つまり生活の中で耳にする全ての情報を信じきっていて、それらが正しいかどうかについては疑問を抱きさえしません。しかし、実は今わかっている中で一番殺傷能力が高いのはオーストラリアウンバチクラゲという生物なのです。

考慮しておくべきことがもう一つあります。誤情報が気づかぬうちに私たちの頭の中に住み着いて事実をぼやけさせてしまうのは、ほとんどがこのアベイラビリティ・バイアスのせいなのです。具体的に言うと、飛行機で空を飛ぶことを怖がっている人は車で出かけるのを恐れる人よりもたくさんいますよね。しかし、実は事故が起きる確率は飛行機よりも自動車の方が高いのです。

宝くじを毎日のように買う人がいますが、こういった人は「遅かれ早かれ当たるだろう」と思い込んでいます。しかし実際にはその宝くじは1500万人に1人くらいの確率でしか当選することはありません。どんな人でも、自らの記憶の中で最もアクセスしやすい情報を優先的に利用し、それをより信憑性の高い情報だと考えてしまうことがあるのです。

アベイラビリティ・バイアス

「アベイラビリティ・バイアス」とはいったい何?

2人の人間が、どこに旅行に行くのが一番良いかを話し合っている様子を想像してください。そして会話の中で突然、天国のような、ほぼ完全無欠な場所の名前が挙がります。

しかし、そのうちの1人は、最近その場所についてのニュースを読んだことを思い出しました。その地区では窃盗の件数がかなり多い、というニュースです。そしてそのことを相手に伝え、きっと他の場所を見つけた方が良いだろう、と提案します。

この例から、意思決定をする際に頭脳がいかに原始的で手っ取り早い思考回路を用いて働いているかがわかるはずです。私たちの脳は、情報の出所がどこであるかに関係なく、一番簡単に手に入る情報からその処理を開始してしまいます。

上記のケースでは、2人は自分たちが読んだ記事の情報だけに基づいて最初の案を捨てる決断をしました。その情報を他の要因と比べたり分析することさえせずに「この話は終了!」としてしまったというわけです。

人間の意思決定という領域や、様々な意見に対して賛成するか反対するかの決め方は、常に心理学の世界から関心を集めてきました。しかし、これらの領域に注目が集まったのは1970年にエイモス・トベルスキーとダニエル・カーネマンがアベイラビリティ・バイアスやヒューリスティクスといった概念を提唱して以降のことです。

人はある状況や決断を評価するとき、いつでも脳内にある中で最も入手しやすい情報を利用するのだ、と2人は説明しています。これについてもっと良く理解できるよう、さらに詳しく見ていきましょう。

人間は一番新しい情報や感情面へのインパクトがより大きい情報を最重要視する

人の脳は、最新の情報を常にはっきりと覚えています。また、私たちには感情との結びつきが強い事象全てをよく覚えている傾向もあります。マーケティングや広告業界ではこの事実がよく知られているため、潜在的な購買層の感情に訴えることでこの脳の仕組みを利用しようと目論んでいるのです。

例えば、トイレットペーパーを買いに行くときのことを考えてみましょう。きっとあなたの頭の中には特定のブランドが簡単に思い浮かぶはずです。広告の力によって私たちは何らかの商品が自分にとって馴染み深いものであるという感覚を抱かせられているため、スーパーマーケットに着くと特に理由もなくとりあえずそれらの商品をカゴに入れてしまいます。

アベイラビリティ・バイアスとは、最近の記憶や強い感情を伴う記憶の中でいつも「手頃な場所」にある情報を利用して私たちに意思決定をさせるバイアスなのです。

アベイラビリティ・バイアスにおける経験の力

アベイラビリティ・バイアスに関して、考慮しなければならない点がもう一つあります。それは、自分自身で何らかの経験をした場合、それらの経験はより記憶に残りやすく、脳内でもより簡単に入手できる場所に居座るということです。

例えば、最近うつ病を乗り越えたばかりの人に「人間にとって一番辛い経験は何だと思う?」と質問したら、「うつ病にかかること」と答えるはずですよね。

また、同じ問いかけに対して「若い時に親を亡くすこと」と答える人もいるかもしれません。なぜならそれがその回答者の身に起こったことだからです。大抵の場合、私たちは自分自身の意見だけを検討して決断を下します。それは単に別の人の意見を自分自身で経験したことがないためであり、また、脳が未経験の物事を考慮に入れようとしないためです。

アベイラビリティ・バイアスっていったい何?

バイアスが起こるのは時間と精神的エネルギーを節約するため

社会心理学者でウェズリアン大学心理学部教授のスコット・プラウスは、アベイラビリティ・バイアスの研究に特に力を注いでいる学者の一人です。ある著作の中で彼は以下のように説明しています。

「ある事象が手に届きやすければ届きやすいほど、その事象の頻度と可能性はより高く見えます。情報が鮮明であればあるほど、その情報はより説得力を持ち、より覚えておきやすくなるでしょう。そしてある事柄が明白であればあるほど、その事柄はより影響力を持つように見えるでしょう」

頭脳がこのようなスキーマを用いて働いているのだとしたら、それは基本的に以下の事実があるためです。人類として進化していく中で、人間の脳は常に反応や行動を積極的に発生させようと努力してきました。その目的は時間とエネルギーを節約することです。生存のため、そして環境への適応のために私たちは知的作業や精神活動をできる限り能率的に行わねばならないのです。

これはつまり、アベイラビリティ・バイアスが常に手元の選択肢を効率的に検討するための近道の役割を果たしていることを意味します。脳内の情報が正しいかどうかは関係ありません。私たちは特定の事実や情報をまるでこの世界でそれらの情報のみが唯一正しいものであるかのように扱います。こうすることで状況を単純化し、すぐに反応を起こすことができるからです。

もちろん、このメカニズムが有益な場合もあります。しかしながら、自分の脳は数多くのバイアスに溢れているのだということを心に留め、その他の情報にも目を向ける努力をいつでも行うようにするのが理想的でしょう。このことを頭に入れておき、時間をかけて落ち着いて考え、自らの思考のいくつかを関連付ける作業をすることが、生活の中で非常に役立つはずです。ぜひこのことを心がけてみてください。

  • Read, J. D. (1995) The availability heuristic in person identification: The sometimes misleading consequences of enhanced contextual information. Applied Cognitive Psychology; 9(2): 91–121.