クリス・アージリスによる推論のはしご理論

史上最悪の災難というのはいつも、自分の頭の中で作り上げた物語です。なぜ私たちはしばしば、非常に残酷で悲観的な将来を描き出す作家になってしまうのでしょうか?この興味深い理論が、その理由を説明してくれています。
クリス・アージリスによる推論のはしご理論
Valeria Sabater

によって書かれ、確認されています。 心理学者 Valeria Sabater.

最後の更新: 21 12月, 2022

誰もがやっていることなのですが、私たちは常に自分の未来についての映画を頭の中で作り上げています。中には、オスカーを獲れるほどの傑作もあるでしょう。人は壊滅的な未来を想像し、絶対にあり得ないようなドラマを生み出し、自らを取り巻く物事に関する奇妙な説明をでっち上げます。こういった根拠のない、そしてしばしば何の意味もない推論が、本日の記事のテーマであるクリス・アージリスの「推論のはしご」理論の土台なのです。

この名前に聞き覚えがない方のために説明すると、彼は組織のための人間行動理論を提唱した人物です。心理学者で経済学者だったアージリスは、ハーバードの教授も務めており、人間の間の結びつきが形成されるプロセスや私たちの意思決定の仕方について、そしてそれらがどう多様な社会的環境にいる個々人に影響を与えているのかについて解説することで、その名を世に知らしめました。

アージリス博士の功績の中でも特に興味深いのが、推論についての理論です。つまり、私たちがどのようにして頭の中にある物事に意味を与えていて、それがいかに私たちの行動に影響しているのかについての理論、ということです。これが魅惑的なテーマである理由は誰しもが知る通りですが、あなたはこれまでに何度、誤った見方かつ自分が嫌な気分になるような形で、あるいは最悪な決断に繋がってしまうような形で物事を解釈してしまったことがありますか?

私たちは常に、周囲の人々や出来事についてのストーリーを頭の中で作り上げ続けています。恋人に嘘をつかれている、同僚から嫌われている、あるいは教師から落第にされる、などと勝手に想像してしまうのです。このような推論から私たちが受ける影響としては、まず、1)しばしば誤った推論であるため、クオリティオブライフが制限されてしまう、そして2)根拠のない考えを高く評価するために、苦しみの悪循環に陥ってしまうという2通りがあります。それでは、もう少し掘り下げていきましょう。

クリス・アージリス 推論 はしご理論

推論のはしご

人間はそれほど実用主義的な生き物ではありません。2と2を足して5を得てしまうようなことがしばしば起こるのです。例えば先週隣人が泣きながら家から出てきたのを見たあなたは、彼はきっと恋人と別れてしまったに違いない、などと勝手に想像したかもしれません。あるいは、上司が誰かと口論をしているのを見て、きっと彼はこの会社を辞めるのだ、自分もできる限り早く新しい仕事を探さねば、などと先走った考えに陥ってしまった経験もあるでしょう。

推論すること、自分だけの結論を導き出すこと、そして物語を頭の中ででっち上げることは、非常に人間らしい行為だと言えます。全員がある程度はこれらの行為を行なっているのです。しかし、中でも特に脳内映画を作るのが得意な人々がいます。そしてこのような現象が起こるのにはいくつか理由があるのです。

  • 脳は不確実性や何かを知らない状態を嫌います。この問題を解決するために、脳は客観的に観察したものとたくさんの想像、そして論理的とは限らない推論とを組み合わせてできたストーリーに頼ろうとするのです。
  • また、近年世界が回るスピードが早くなっている点にも注目しなければなりません。一日の間に、かなり大量の情報や刺激を受け取るので、素早く結論を出して行動せねばという大きなプレッシャーに私たちは晒されています。
  • もう一つの原因は、頭脳が回転するスピードは早まっているのに浅い思考しかできていないことです。

これら全ての要因が、何らかの深刻な誤解に繋がる恐れがあります。要するに、物事を誤った形で誰かあるいは状況のせいにするので、それが当然のように問題を引き起こすのです。こういったプロセスから離れ、もう少し制御できるようになるための方法の一つに、この非常に人間くさい傾向への理論的アプローチを学ぶというものがあります。そして今回のケースでは、クリス・アージリスによる推論のはしご理論が有用なのです。彼の理論を知ることで、意思決定の際に頭脳がどう機能しているのかをもっとよく理解できるようになるでしょう。

推論のはしご理論とは?

クリス・アージリスとピーター・センゲは、この理論を著作『フィールドブック 学習する組織「5つの能力」 企業変革をチームで進める最強ツール』の中で説明しました。推論のはしご理論は組織の文脈で設計されたものであり、なぜ人は仕事の場で悪い決断を下してしまうのかを説明することを目指しています。

彼らは、人が何らかの結論に至るまでの過程をはしごのメタファーを使って説明しました。はしごの各段は、以下を象徴しています。

  • 周囲を観察する。
  • 目に入るものについての特定のデータや情報を選択する。
  • そのデータや情報に意味を割り当てる。
  • 仮定を考え出す。
  • 思い込みを元にして結論を導き出す。
  • 結論に基づいた行動を起こす。

その人の信条が、このプロセス全体に影響します。いかに特定の情報を選択するか、そして残りを無視するかが、信念や思い込みによって決定づけられているのです。また、これらによって現実にフィルターがかかり、観察から結論へと一瞬で飛び移ってしまうことが多くなります。

推論のはしごを強みとして活用するには?

これで、脳が不確実性に耐えられないことはお分りいただけました。だからこそ、私たちはすぐに(そして多くの場合不正確に)結論へと飛びついてしまいがちなのです。さらに、このプロセスは有害で他者との軋轢を生むような決断を引き出しかねないということもお分りいただけましたよね。

クリス・アージリスの推論のはしご理論は、結論へ真っ先に飛びつくのを回避するための戦略をいくつか提供してくれています。彼の理論を活用することで、重要な熟考の結果として生まれた、より客観性の高い決断や行動を引き出せるようになるのです。以下でそのメソッドを説明していきます。

より良い意思決定のための6ステップ

推論のはしご理論では、私たちの側に一定度合いの責任と精神的努力が求められることを想定しています。物事を勝手に決めつけるのを思い留まり、心を開くことができれば、間違いだらけの結論を下してしまわずに済むようになるはずです。

以下は、より正確な推論を行えるようになるために従うべきステップです。

  • はしごの1段目。事実を客観的に観察してください。自分の信念は一瞬脇にどけ、勝手な決めつけは一切行わないようにしましょう。
  • 2段目。いかなる情報も帳消しにしないでください。時折、自らの持つ独自の世界観に合わないからといって私たちは特定の情報を取り除いてしまうことがあります。しかし客観的観点を維持できるよう努めてください。
  • 3段目。事物を目にすると、私たちの脳は自動的にそこへ何らかの意味を付与したがります。ある事柄に一つの意味を割り当て始める自分に気づいたら、なぜ他の意味ではなくその意味を選択したのか自問してみてください。自分自身の思考プロセスに対して批判的になりましょう。
  • 4段目。意味の割り当てが済むと、私たちは仮説を立て始めます。その仮説が目の前にある事実に基づいたものであるのか、あるいは思い込みに基づいたものであるのかを自問してみましょう。
  • 5段目。何らかの結論にたどり着いたら、それをフィルターにかけて自分の信念や感情を取り除きましょう。客観的なレンズを通して自分の結論を観察してください。それでもなお自分の出した結論は正しいと言えますか?
  • 6段目は行動に関してです。あなたは感情に基づいて行動していますか、もしくは客観的な情報に基づいて行動できていますか?知覚した現実に合う、適切な振る舞い方を心がけましょう。感情に流されるのを自分に許してしまうと、その後後悔する羽目になるようなことを言ったり行ったりしてしまいやすくなります。思慮深くなりましょう。

まとめると、私たち全員がこういった現実とはほとんど関連のないストーリーを頭の中で作り上げた経験を持っています。そしてそれらは架空の物語であるとは言え、自分自身にも他人に対しても実害をもたらす恐れがあるのです。

結論を出すのを急がないようにして、このような状況を回避できるよう努めましょう。客観的でいることを心がけてください。決めつけはやめて、偏見を門前払いしましょう。そうすればあなたも、あなたの周りにいる人々も今より幸福になれるはずです。


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  • Argyris Chris, Senge Peter (2006) The Fifth Discipline: The Art & Practice of The Learning Organization. Doubleda

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