映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』

『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』は、素行が悪いけれど天才的な頭脳を持つ若者についての物語です。その会話劇を通して、観ている私たちは主人公の過酷な過去を深く知っていくことになります。とてもポジティブで、普遍的なメッセージを伝えてくれる映画です。
映画『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』
Leah Padalino

によって書かれ、確認されています。 映画批評 Leah Padalino.

最後の更新: 22 12月, 2022

映画監督のガス・ヴァン・サントは、90年代のオルタナティブ・インディペンデント映画界において観客からも批評家からも支持を得ました。彼は、あまり注目されない周辺的な人物像や、型にはまることができずに苦しむ人々を描くことを好みます。そんな彼が、のちに大ヒットとなった『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』を監督することになったのも不思議ではありません。

1997年はシンプルな年で、実証主義的映画が大スクリーンに溢れていました。その意味では、『グッド・ウィル・ハンティング』もまさに90年代らしい映画だと言えるでしょう。プロットはシンプルで、観客を騙すような展開はほとんどなく、結末も予想のつくものです。しかしながら、映画の持つメッセージは冒頭から観る者の心を惹きつける力を持っていました。

『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』

まず登場するのが、トラブルを抱えた、カリスマ的でありながら暴力に走りがちな若い男性です。それでも彼、ウィルはかなり明晰な頭脳を持ち、壮絶な生い立ちがありながらも、映像記憶の能力とともに数学の類まれな才能を持っていることが明らかになります。

ケンカ事件により刑務所行きになりかけたウィルでしたが、彼の才能を見破った数学教授ランボーのおかげで、最悪の事態はまぬがれます。

ただ、保釈の条件として、ウィルはセラピーに通わねばならないことになりました。ところが何人かの心理学者のもとでセラピーを試みてもなかなかうまく行きません。それを変えたのが、ランボーの旧友であるショーンという心理学者の登場でした。

映画の中では、徐々にどんな理由があってウィルは暴力行為に走るのか、そしてなぜ彼が誰とも、そして何とも真に心を通わせようとしないのかが明かされていきます。もちろん、彼の指導者ショーンを演じたロビン・ウィリアムズは光り輝いており、その姿は『いまを生きる』(ピーター・ウィアー、1989年)での自身の役を彷彿とさせます。

“あんたは、図書館に行けば1.5ドルの延滞料で済む教育を15万ドルも無駄にして受けている”

-ウィル・ハンティング-

功を奏した制作背景

興味深いことに、このタイプの他の映画とは異なり、『グッド・ウィル・ハンティング』には原作が存在しません。つまり、オリジナル脚本の映画なのです。

当時、ベン・アフレックとマット・デイモンはそれほど有名ではありませんでした。新人俳優としてはすでにそれなりの成功を納めていたのも事実ですが、ほとんどの人にとってはまだ無名だったのです。

『グッド・ウィル・ハンティング』は、普通とはちょっと違う何か、友人同士(アフレックとデイモン)が一緒にできる何かをやろうという試みの結果として作られ始めました。最初の頃、映画はスリラー作品になる予定でしたが、最終的に仕上がったのはそれとは全く異なるものでした。

また、プロデューサーたちは当初この二人の若い役者をキャストにすることに難色を示していましたが、徐々に折れることになります。実は、この映画の一番の強みの一つがまさに、俳優たちの役どころの解釈にあるのです。もちろんロビン・ウィリアムズが圧倒的な名俳優であることは事実ですが、ベン・アフレックとマット・デイモンの素晴らしい演技なしには、この映画のメッセージがこれほど深く心に突き刺さるものにはなっていなかったでしょう。

その証拠に、ロビン・ウィリアムズとマット・ デイモンが演じる2人が心を通わせ合うシーンは、もうすでに90年代映画の重要な一部となっています。両者とも完璧にそのキャラクターを体現し、二人の関係性を本物のように見せてくれました。

サウンドトラック

この映画のもう一つのサクセスポイントは、ダニー・エルフマンの作曲したサウンドトラックでしょう。彼は、ニュー・ウェイヴバンド”オインゴ・ボインゴ”のリードシンガーとして90年代にかなりの人気を博した人物です。その名前だけではピンとこないかも知れませんが、おそらくすでに皆さんも彼の曲を知っているか、好きになったことがあると思いますよ。

彼のティム・バートン監督とのコラボレーションはよく知られています。例えば、彼は『シザーハンズ』『マーズ・アタック!』『スリーピー・ホロウ』などのティム・バートン作品で音楽を担当しました。また、ご存知の方もいらっしゃるかも知れませんが、あの有名な『ザ・シンプソンズ』の曲の作曲者も彼です。『グッド・ウィル・ハンティング』では、エルフマンは自身の音楽を通して登場人物それぞれの感情を強調するような素晴らしい貢献を果たしました。

簡単にいうと、この映画には優れた原料がふんだんに盛り込まれていて、それがヒットにつながったということです。アカデミー賞では9つものノミネートを獲得し、ロビン・ウィリアムズがアカデミー助演男優賞を、そしてマット・デイモンとベン・アフレックが脚本賞を受賞しました。

『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』 映画

『グッド・ウィル・ハンティング』からの明白なメッセージ

『グッド・ウィル・ハンティング』のプロットは、ポジティブで楽観的かつ、困難を乗り越えられるようなメッセージを発する、時代を超越した内容です。展開が読めやすいのでそのメッセージが退屈に思えてしまう可能性はあるにせよ、実は物語の進み方によりこれが効果的になっています。

アメリカ映画界は常にこの種の映画を無数に排出し続けてきましたが、すぐに時代遅れになってしまうものや忘れ去られてしまうもの、あるいはメッセージが陳腐すぎて観客の信頼を得られなかったものなどが多いのです。

それではなぜ、『グッド・ウィル・ハンティング』は時代を超えて愛され続けているのでしょうか?おそらくその理由は、キャストがセリフの強烈さにマッチしていたからでしょう。主人公にただ賢そうな言葉を言わせるのではなく、一番人間臭い部分に焦点が当てられていたからなのです。

この種の物語をこれまでに観たことのない人などいるでしょうか?貧しい地区で育った若い男性が情緒面の問題に苦しみ、暴力衝動を抑えられず、しかし最終的に困難を克服して強い自分に生まれ変わる。何も新鮮な点は見当たりません。この作品は画期的な映画だったわけではありませんが、それでも観客達の心を鷲掴みにしています。

映画の中で一つ、忘れ難いシーンがあります。ロビン・ウィリアムズ演じるショーンが、ウィルを言葉も発せないような状態にしてベンチに置き去りにするシーンです。ショーンは、他人の気持ちや人生を真に知ることのできる人など一人もおらず、したがって世界を真に知ることなどできないのだ、とウィルに説きます。

本の力

本や哲学は世界を理解し知るために役立ちますが、結局は個人的で主観的なものである「経験」には敵いません。しかし少しずつ、観客達はウィルの学びや進歩の過程を目の当たりにしていきます。

ウィルというキャラクターの描写は表面的なものに留まってはいません。私たちが観る彼の姿は、心理学者ショーンの目から見たものになります。この人物こそ、最終的にウィルの瞳を開かせ、共感を示して寄り添う救世主的な登場人物です。ショーンにそれができた理由は主に、あらゆる人間と同じように、彼も背中に重荷を背負っており、彼自身の過去の亡霊と戦っていたからでしょう。

この、「困難や過去を乗り越える」というメッセージが、観ている人々の心にすんなりと届きます。映画全体としては、多少のアクションシーンはあるものの、非常に娯楽性の高い内容だと言えるでしょう。観衆は、過去の清算、受け入れること、そして許すことといった感覚を味わうことができます。

壮絶な過去

よくある話ですが、主人公の現在の姿は、過去の彼からダイレクトに影響を受けた結果になっています。そして、映画の最初の方を観ただけではウィルがいったいどんな人物なのか理解するのは難しいのですが、幼少期に何かトラウマになるようなことがあったのだろうという予測はつくはずです。おそらく、孤児であることで彼の心には大きなダメージが与えられ、精神的に引き裂かれてしまったのでしょう。

また、彼と友人たちとの関係性も描かれます。ウィルが唯一信頼していたのはその友人たちでした。このことは、彼の仕事に対する姿勢やスカイラーという若い女子医学生との恋愛関係を見ても明らかだと言えます。

ウィルは、どんなものとも、あるいはどんな相手とも、心の通い合った関わり合いを持とうとしていないように見えます。責任を持つことを回避しようとするのです。感情に振り回されるのを嫌っているとも言えるでしょう。

幼少期に愛を知らずに育った犠牲者だった彼は、不合理な恐怖心から安定を求めるのを恐れてしまっているのです。これがまさに、彼がランボー教授の指示に耳を傾けようとしなかったり、スカイラーとともにカリフォルニアへ旅立つ決心をしようとしなかったことの理由です。これまで通りの生活を続けることが、彼にとっては心を守る手段だったのかもしれません。

社会の圧力というものも、この映画で取り上げられています。皆さんもきっと、高度な能力を持つ人々は必ずやそれを活かし、特定の職種につくのが当然だ、と考えてしまいがちなのではないでしょうか。もしそうであるならば、そういった才能のある人々の本当の願いは何なのだろうかと考えてみてください。自分が何をやるべきかを他人に決めつけられたりせず、期待されずに済むのが一番なはずです。

『グッド・ウィル・ハンティング/旅立ち』に関するまとめ

ウィルが特別な人間であり、驚くほど才能に溢れた若者だというのは事実です。しかしそれでも、だからといって例えばシンクタンクに勤めるなどの特定の道筋に従わなければならないという訳ではありません。ランボー教授がウィルにそのようなプレッシャーをかけたのに対して、心理学者ショーンは理解の心を持ってウィルと接します。彼は、ウィルに自分自身で何が一番自分にとって良いことなのかを決めさせ、過去の苦悶を解決させようとするのです。さらに、自分一人の力で過去を組み立て直すよう諭します。

『グッド・ウィル・ハンティング』のテーマはポジティブ思考であり、真新しい部分は一切ありません。典型的な90年代映画なのです。しかし、その重要性は映画の持つメッセージの普遍性や感情の伝え方・見せ方に現れています。そして最後には、エンターテインメント性を失うことなく、胸が軽くなるような明るいメッセージを私たちに届けてくれるのです。


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