クリューヴァー・ビューシー症候群:恐怖心を失う病

2019年11月4日
クリューヴァー・ビューシー症候群は、行動に関して扁桃体や側頭葉が担う役割を知るための重要な一例です。読み進めて、さらに詳しく学んでいきましょう!

クリューヴァー・ビューシー症候群は、神経系の変化がいかに個人の生き方を完全に変えてしまうかが示されている究極の例であると言えるでしょう。

あなたの脳に、恐怖心や拒絶の感情を司る領域があることを想像してみてください。では次に、この領域が損傷し、恐れるものなど何もない状態になることを想像してみてください。もしかしたら、「怖いものがないなんて素晴らしい」と思われるかもしれませんが、実際にはそうではありません。恐怖を感じたいと願う人などいないのは事実ですが、恐怖心は生き抜くために必要な感情なのです。

この大切な領域こそが扁桃体であり、これが変形したり排除されたりすることで、クリューヴァー・ビューシー症候群が引き起こされます。この症候群の特徴は恐怖心や抑制を失うことであり、危険な行動を引き起こしたり、乱れた食生活や機能不全的な性的活動に繋がってしまうこともあります。

クリューヴァー・ビューシー症候群

この症候群について特定したのがハインリヒ・クリューヴァーとポール・ビューシーであり、そこからこの名が付きました。二人の医師たちは、側頭葉の働きについて探究するため、アカゲザルの側頭葉を切除するという実験を行いました。この実験による彼らの発見は、少々不安を感じさせるようなものでした。基本的に、この神経構造に変更が加えられることで、以下のような症状が引き起こされることがわかったのです:

  • 口を使った行動。サルたちは、全ての物体を、まるでそれが唯一の方法かのように口を使って確認しようとする衝動を見せました。
  • 性行動過剰。性的な行動がかなり増加しました。
  • 視覚失認。視覚を用いて物体や人間を認識するのが困難になりました。
  • 感情面の変化。非常に無気力な状態になり、表情の変化が乏しくなりました。中でも最も顕著な感情面の変化は紛れもなく、恐怖心が失われたことでしょう。それ以前であれば恐怖心を感じさせていたような刺激が、何の感情の引き金にもならなかったのです。

人間のクリューヴァー・ビューシー症候群

人間がこの症候群になってしまった際も似たような症状が現れますが、いくつか違いがあります。強迫的な行動や無差別な行動が特にこの病状と関連性が強く、社交的なやりとりにおいて大きな変化が見られます。その中でも、以下が主な症状です:

  • 恐怖心の喪失。普通であれば避けるように学習されているような有害と見られる刺激に対して関わり合おうとする衝動が見られます。
  • 見境いのない食生活。強迫的な食事の仕方になってしまうだけでなく、プラスティックや糞便などの危険な物質にまで手を出そうとします。
  • 性的行動。セクシュアリティの制約がなくなってしまうようです。抑制のほとんどない状態で、あらゆる種類の性的活動が増大します。
  • 口を使った強迫的な行動。この症候群を抱える人々は、全てのものを口を使って強迫的に調べようとします。
  • 衝動抑制の欠如。これにより、患者のパーソナリティ全体に影響を与えられますが、視覚レベルにも影響があります。全ての視覚的刺激に対し、まるでそれが今まで一度も経験したことがない刺激であるかのように過剰な反応をする傾向があるのです。
  • 認識力がなくなる。患者は、友人や家族を認識することができなくなります。その結果、相手を認識できている場合であれば絶対に取ることのないような態度を取ってしまいます。
クリューヴァー・ビューシー症候群 恐怖心を失う 病

衝動抑制の喪失

恐怖や拒絶などは、一般的にはネガティヴで好ましくない感情として捉えられています。しかし、この思い込みは生物学的・進化論的レベルで言うととても表面的なものであることに加え、全くもって無意味です。恐怖、拒絶、そして衝動抑制は、周囲の環境と実用的に関わり合っていく上で役立つ感情なのです。

行動の変化

人が他者と関わり合うことができなくなると、非常に深刻な結果をもたらします。そして、クリューヴァー・ビューシー症候群こそ、それが明白に示された例なのです。事実、自らの衝動と行動との間の線引きができないことにより、こういった症状が引き起こされてしまいます。さらに言うと、周囲の人々を認識する能力の喪失により、自らの愛する人々との精神的な絆に関する記憶を修復することができなくなり、この病状は悪化していきます。

クリューヴァー・ビューシー症候群による器官の変化

上記のような症状は、神経系の特定の器官の構造的な変化が病院となっています:

  • 側頭葉。側頭葉は、言語の処理を司っています。また、視覚刺激と記憶内の感情内容とを結びつけます。視覚失認は、主にこの構造に変化が与えられることによって現れる症状です。
  • 扁桃体。感情の処理を司る皮質下の構造です。危険を及ぼす恐れのある刺激を受けると活性化し、闘争・逃走反応を引き起こします。これは哺乳類が生き残るために必要不可欠なメカニズムです。
  • 白質の束。これは主に、神経系のいくつかの部位を皮質かレベルで結びつけるための軸索の集まりです。ここに変化が与えられると、既存の記憶内の刺激とその感情内容との関連性がねじれてしまいます。
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クリューヴァー・ビューシー症候群の原因

前述の構造上の変化には、様々な原因と発現の形が考えられます。その中でも特に顕著なものが以下です:

  • 感染症やウイルス性の病気。ヘルペス脳炎や髄膜炎が最も多い原因です。これによって引き起こされる感染症や炎症が、神経組織を破壊します。
  • 怪我。例えば、外傷的な脳の損傷は大抵の場合偶然起こるものです。扁桃体などの皮質下構造への影響が出るのは、普通かなり深刻で深い部分の損傷です。外科手術による損傷もこれを引き起こすことがあります。
  • 認知症。クリューヴァー・ビューシー症候群は、多くの場合、アルツハイマー病やピック病に関連しており、皮質下レベルで神経組織の変性が起こって側頭葉に影響を与える可能性があるのです。こうなると、ほとんどの知的能力が枯渇してしまいます。
  • 腫瘍。腫瘍による圧力と代謝の不均衡は、クリューヴァー・ビューシー症候群のいくつかの症状を引き起こす可能性があります。腫瘍はほとんどの場合前頭側頭の領域に見つかります。
  • てんかん。電子的なレベルで側頭葉に変化が与えれられると過剰活性が起こり、神経組織、主に白質経路へ影響が与えられます。
  • 発作。閉塞による滲出や失血から引き起こされる出血もまた、この症候群の重要な病因です。

治療

神経組織を修復することは不可能であるため、治療には制約があり、困難です。ほとんどの治療で、不適応行動の症状を和らげるために医薬品が用いられます。

まず、医療的介入の第一の目的は、損傷による影響を抑えることです。その一例として、発作による出血を押し戻そうとするものが挙げられます。損傷による行動への影響はわずかなものから始まるため、この症候群を予見することは困難です。

また、神経科学やリハビリ技術の前進により、患者のクオリティオブライフはどんどん改善されています。クリューヴァー・ビューシー症候群は、神経組織の変化が私たちの日常生活に与えかねない影響の大きさを示した明確な具体例です。患者は周囲の人々を認識することができなくなるため、その人を大切に思っている人々もまた苦しむことになります。このため、家族や友人たちとのセラピー的な活動が非常に重要なのです。

  • Klüver, H. & Bucy, P. (1997). Preliminary analysis of functions of the temporal lobes in monkeys. 1939. J. Neuropsychiatry Clin. Neurosci. 9 (4):606-620