「MUM効果」って何?その私たちへの影響とは?
社会心理学の分野には数多くの興味深い現象が存在しており、それらを知ることが、他者と関わり合う際になぜ私たちが特定の振る舞い方をするのかを理解する上で役立ちます。「MUM効果」も、そういった現象の一つです。専門家はこれを、他の人々が自分と悪い知らせとを結びつけてしまうのではないかという恐怖心による、悪い知らせを与えることの回避あるいは拒否、と定義しています。
私たちの振る舞い方を左右しているのは、社会的環境です。つまり、周囲にいる人々が私たちの行動や考え方、感じ方に影響を及ぼしているのですが、この後ご覧いただく通り、これには日常生活で頻繁に生じるとある現象が大きく関与しています。その現象こそがMUM効果であり、この効果により私たちは罪悪感を感じるのを回避したり、自尊心を守ろうとする行為に及ぶのです。
“最も謙虚な人こそが、良かれ悪しかれ他者に対して影響を及ぼすのだ”
MUM効果とは?
私たちが悪いニュースを伝えるのを拒否したり、避けたりしている時、まさにMUM効果が発生しています。ネガティブな雰囲気になるのを避けようと、事実をゆがめたり隠したりすることもあるほどです。ここには、悪い知らせを知らせることへの恐怖心が存在しています。これは、相手が悪い知らせと自分とを関連付けて解釈してしまったらどうしよう、という恐れです。実際に伝えたい事実と自分自身とに関連性があるかどうかは関係ありません。この恐怖心は、相手からネガティブな人間だと見なされたくない、という思いから生じているのです。
この効果は、あらゆるネガティブなニュースを前にした時に発生します。例えば誰かの死、事故、あるいは深刻な病などの知らせがこれに当てはまるでしょう。さらに、どんなタイプのコミュニケーションにおいても、そしてニュースの受け手がどんな人物であっても(家族、友人、恋人など)、MUM効果は起こり得ます。
ただ、非常によく発生する現象であるにも関わらず、この効果が普遍的な現象というわけではありません。例えば都市伝説や噂、テレビニュースなどは全て、悪い知らせを伝えているように見えますが、それでも私たちはその内容に惹きつけられてしまいますよね。
MUM効果で私たちはどんな影響を受ける?
MUM効果は特に、その知らせが話し手あるいは受け手の心身の健康状態に影響するもの、あるいはそれに関連するものだった場合に起こりやすくなります。では、この効果によって私たちはどう影響を受けるのでしょうか?
基本的に、悪い知らせを伝えねばならなくなるとMUM効果が発生し、私たちは伝えるのをやめようとしたり、あるいは無意識的に伝えるべきメッセージを修正し、それほどネガティブなニュースに見えなくさせようとします。前述の通り、これは悪い知らせと自分自身とを連想されてしまうことへの恐怖から発生する現象です。話し手は、自分がその嫌な出来事を起こした犯人であるかのように解釈されたらどうしよう、という懸念を抱いています。例えそれが全く不合理な恐怖心だとしてもです。
ここで指摘しておかねばならないのが、毎日のように悪い知らせを伝えなければならない仕事をしている人々(医師など)は、普通の人よりもMUM効果への耐性が強い傾向がある、ということです。さらに、彼らはメッセージの内容を修正するようなことはしません。なぜなら、それが彼らの仕事の一部であり、発生している問題についての事実を捻じ曲げてはならないからです。しかしもちろん、だからと言って悪い知らせを伝えねばならない時に苦しい思いをしていない、というわけではありません。
結局は人間である以上、このような恐怖、不快さ、あるいは不安を感じるのはごく自然なことなのです。つまり、自ら進んで悪いニュースを伝えたがる人などいませんよね?このように、MUM効果によって私たちはこの恐怖心あるいは不快感や、知らせを伝えることで相手に与えかねない痛みの埋め合わせをしようとしているのです。
MUM効果の原因
この現象はなぜ生じるのでしょうか?先ほどお伝えした通り、これには相手からネガティブな、あるいは魅力のない人間だと思われてしまうことへの恐怖心が関連しています。しかし、この背後にはどんな原因が隠れているのでしょう?なぜ私たちは「魅力的だ」と思われたいのでしょうか?
いくつかの強化理論が、この効果に言及しています(LottとLott、Bryne)。これらの理論によれば、人は目の前にいる人物あるいは、自分に何らかの影響(ポジティブなものであれネガティブなものであれ)を及ぼす人物に惹きつけられるそうです。この強化理論の内容に加えて、相手が自分を好きになってくれるかどうかは普遍的な関心ごとでもあります。
一方で、私たちの現実観はある認知バイアスからの影響を受けています。 これは「公正世界信念」と呼ばれるバイアスで、その正体は「自然の成り行きは、関与している人々全員に対して公平に起こるものだ」という不合理な思い込みです。あるいは、「因果応報(善い行いをすれば善い報いが、悪い行いをすれば悪い報いが返ってくる)」と言い換えることもできるでしょう。この誤った思い込みもまた、私たちが誰かに悪い知らせを伝えるのをためらってしまう理由になっている場合があります。なぜなら、話し手の側が「相手がこんな悪い出来事を経験しなくてはならないなんてフェアではない」という思い込みを持っているかもしれないからです。
なぜ悪い知らせを伝えるのが嫌なのか?
再びMUM効果と先ほどまでの話題に戻りましょう。実のところ、誰一人として悪いニュースの伝達者になりたがる人など存在しません。しかし、これはどうしてなのでしょうか?その説明となる、科学的調査によって裏付けられている原因をいくつか紹介します。
- 自分の心身の健康状態を気遣っているため。悪いニュースを伝達する時に感じる罪悪感はそれを損ねるものであるため、回避したくなるのです。
- 他人を傷つけたくないと思っているため(そしてこの気持ちは主に、共感という感情によって説明することが可能です)。
- 他者と交流する際、人はその指針として特定の社会規範を参照しているため(世間には、「物事を正しく行うための方法」に関する思想が溢れています)。
- 自分と、伝えねばならない悪い知らせとが結びつけられることを心配してしまうため(そして、それによって魅力のない人物、あるいは良いところのない人物という印象を抱かれてしまうのを恐れているため)。
悪い知らせを伝えるための魔法の公式など存在しない
社会の中でどう振る舞うべきかについての、明確なルールは存在しません。それは悪い知らせの伝え方に関しても同じです。伝達によって生じるネガティブな衝撃を軽減してくれるような完璧なプロトコルや魔法の公式は存在しないのです。
しかし、2006年に『Journal of Intensive Care Medicine』誌で発表されたBuckmanとBaileによるプロトコルが、悪いニュースの伝え方に関する実践的なアイディアを教えてくれています。
もちろん、他者を傷つけることを回避したがるという傾向を人間が持っている限り、MUM効果は常に存在し続けるでしょう。この傾向は主に、他者から受け入れられたいという欲求や、健やかな自尊心を維持したいという願望から生まれるものです。さらに、共感や感情移入といった感情も、この現象を説明する要因の一つだと言えるでしょう。
簡単に言うと、私たちは悪い知らせよりも良い知らせを伝える方を好みます。誰だって自分をポジティブな事柄と関連づけて欲しいものなのです!
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