驚くべきアインシュタインの脳

· 2018年11月19日

1955年、病理学者トーマス・ハーヴィーは、アルベルト・アインシュタインの遺体の検視を行った際、アインシュタインの脳を持ち帰りました。その後、反抗的で科学的好奇心に富んだ多くのやり取りが展開されました。アインシュタインの天才の秘密を知りたい人もいれば、アインシュタインの脳を盗むことに意味を見出せない人もいました。いずれにしても、分析の結果は驚くものでした。

科学的で歴史的な出来事の説明は、興味深いのと同時に物議を醸すものです。今回ご紹介する話は間違いなく悲劇的ではありますが、同時に人間の自分を知ろうとする強い渇望を浮き彫りにしています。世の中を変えた人の脳の全貌を暴くことは、素晴らしいことを発見する有効な手段です。

そして、相対性理論の父もその有効な手段の一つです。アルベルト・アインシュタインは特別な人でした。彼は社会的に大きな影響を与えたアイコンであり、メディアに取り上げられる有名人でした。彼はこのことをよく理解していたため、自身の死後について詳細な指示を残していました。彼にとっての最優先は、思慮分別とプライバシーでした。また、アインシュタインは火葬され、密かに川に散骨されることを望みました。そして、これら全てが滞りなく行われてからメディアへの発表という流れを求めていたのでした。

しかし、その通りには進みませんでした。ある人物が誰も予想しなかったことをしたからです。病理学者トーマス・ハーヴィーは、アインシュタインの解剖を行うと彼の脳を家に持ち帰ったのでした。このことにより、アインシュタインは彼が最も望んでいなかった「偶像崇拝」されることなってしまったのです。

アルベルト・アインシュタイン

アインシュタインの脳を盗んだ男

このストーリーは、偶然とチャンスがうまく絡みあっていました。アインシュタインは1955年4月18日、腹部大動脈瘤破裂により76歳で死亡しました。死後数日で火葬され、遺族はメディアで彼の死が取り上げられることを分かってはいましたが、思いもよらぬ内容で取り上げられていることに驚きを隠せませんでした。ニューヨークタイムズは、この理論物理学者の脳が科学的研究のために摘出されたと報じたのです。

そして、解剖を担当していたのは病理学者であるトーマス・ハーヴィーでした。ハーヴィーはアインシュタインを崇拝していた一人だといいます。また、非常に内向的な面と科学者としての強迫的な細密さの面を持つ二重人格だったという噂もあります。アインシュタインの遺体の検視を行う機会を与えられたことは彼にとって非常に幸運なことで、断るはずがありませんでした。

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解剖と地下室

ハーヴィーはアインシュタインの脳を細心の注意を払って摘出しました。脳の重さを量り解剖すると、いくつかの瓶に入れました。そして、自宅の地下室に安全に保管していたのでした。神経科医ではなかったハーヴィーの目的はシンプル、かつ野心的でした。それは世界中から最高の専門家を集め、アインシュタインの脳のあらゆる部位の細部と断片を細胞レベルで研究させる、というものでした。そして、その研究結果を最も有名な学会や学術雑誌などでなるべく早く発表し、世界的に有名になることでした。

アインシュタインの脳を盗んだトーマス・ハーヴィー

案の定、結果は彼の求めるものとかけ離れたものとなりました。当たり前ですが、まず彼は仕事を失いました。科学界は彼を厳しく批判し非難しました。プリンストン大学での有望なキャリアは脅かされ、盗んだのが脳ということだけでなく、それを自宅の地下室に保管していたという不可解で不快な事実を知ってしまった妻は彼の元を去りました。

しかし、奇妙なことに、脳の研究を続けるよう勇気付けたのはアインシュタインの息子ハンス・アルベルトだったのです。最初は気分を害し怒っていたハンス・アルベルトでしたが、論理的に正当化しました。アインシュタインは常に科学の進歩を提唱していました。アインシュタインの脳を分析することで科学界に何らかの貢献ができるのであれば、という条件で遺族はハーヴィーに許可を与えました。このようにして、トーマス・ハーヴィーの研究は続けられることになったのでした。

アインシュタインの脳の研究結果

アルベルト・アインシュタインの脳の分析結果は1975年に報告され始め、今なお続いています。ハンス・アルベルトが許可を与えた後、ハーヴィーへの風向きは変わりました。彼の元には電話や取材が殺到し、一躍有名になりました。彼の家の庭に泊まり込むレポーターさえいました。また、サイエンス誌や世界最高の神経学者たちからも取材を求められるようになりました。

アインシュタインの脳を240個のブロックに切り刻み、200枚のスライド12組に乗せたハーヴィーの努力もやっと実を結び始めたのでした。

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世界で最も注目を浴びた脳に秘められたものとは

アルベルト・アインシュタインの脳について最初に驚く点は、そのサイズです。通常より小さかったのです。

  • カリフォルニア大学バークレー校はその結果を1985年に発表しました。彼らはグリア細胞のサンプルを観察しました。グリア細胞という脳細胞は、ニューロンの「ヘルパー」として脳が情報を処理するのを助けます。研究によって明らかになったのは、アルベルト・アインシュタインのグリア細胞は数が少ないが、細胞一つ一つの大きさは通常より大きかったということです。
  • 1996年、バーミンガムのアラバマ大学はアインシュタインの前頭葉前部皮質に関する論文を発表しました。空間認知と数学的思考を担う脳のこの部位が、アインシュタインの脳ではより発達していることが発見されました。
  • 2012年、人類学者ディーン・フォークは、アルベルト・アインシュタインの脳画像を研究し、驚くべきことを発見しました。アインシュタインの前頭葉の真ん中に、もう一つの隆起を見つけました。通常は3つある隆起ですが、アインシュタインには1つ「余分」に隆起があったのです。専門家によると、脳のこの部位は計画やワーキングメモリーに関連していると言います。
  • アインシュタインの頭頂葉は左右非対称でした。また、この分野では「オメガサイン」と呼ばれる特徴が見つかりました。この特徴は左利きのバイオリニストにも見られるそうです。そして、アインシュタインも左利きで、バイオリンを演奏しました。
  • 2013年、前述の人類学者ディーン・フォークはアインシュタインの脳梁(のうりょう:左右の大脳半球を結ぶ繊維の束)を詳しく調べました。そして、それが通常より太いことを発見したのです。このことで、アインシュタインの大脳半球間のコミュニケーションはよりスムーズなものであったことが想像されます。
脳活動

まとめ

分析されたデータがいくら印象深く素晴らしいものであっても、重要な側面を見過ごすことはできません。有名な神経科医テレンス・ハインズが指摘した通り、アルベルト・アインシュタインの脳を研究した研究者たちは「天才の脳を分析する」という考えで行っていました。アインシュタインの脳から何か例外的なものを探し出そうとしていたのです。

ハインズ医師が指摘するように、脳は一つとして同じものはなく、必ず例外的なものがあります。脳は私たちの日々の生活や活動によって作られるものです。楽器を演奏するというシンプルなことや、クリエイティブな仕事に就いているということだけでも脳は再編成されるのです。相対性理論の父であるアインシュタインを特徴付けるもの…それは、彼の多才さです。素晴らしい物理学者であっただけでなく、アインシュタインは複数の言語を話し、あらゆる楽器を演奏しました。アスペルガー症候群だったと考える人も多くいます。これらの要因が全て組み合わさり、非常に洗練された専門性の高い、そして若干小さい脳を作り上げたのです。

今日、科学界はアインシュタインのDNAを分析しようとしています。アインシュタインはこの世を去った今なお人々の崇拝と実験的な渇望の対象になっているのです。