不安障害のための診断横断的な治療

2020年5月9日
臨床心理学では、一つの療法によって複数の障害を治療する、診断横断的な治療法が行われはじめています。不安障害の治療に関するノートンの研究については、続きをご覧ください。

過去10年間で、臨床心理学の分野では患者に用いることのできる治療法が色々な発展をとげてきました。その一つに、診断横断的な治療が挙げられます。

一般的には、個別の精神病に対して特定の治療法が用いられるものです。しかし、障害のカテゴリー全体に対して同一の治療法を行う方が効果的であり、効率的であるという研究結果もでています。この概念は、診断横断的な治療と呼ばれるものです。

診断横断的な治療では、複数の障害にわたって共通する要因に対して集中的にアプローチします。例えば、パニック障害、恐怖症、全般性不安障害には、あらゆる不安障害に共通するひとまとまりの特徴があります。これには、苦悩する傾向がある、ネガティブな思考、生理学的な過活性化、逃避、安全確保行動などが挙げられます。

それでは、それぞれの障害に対して異なる認知行動療法を行うことは理にかなっているのでしょうか?ヒューストン大学のノートングループによると(Norton, Hayes, and Hope 2004; Norton and Hope, 2005)、その答えはノーです。

研究者たちは、さまざまなうつ病や不安障害をもつ患者たちに対して、診断横断的な認知行動療法を用いたグループセラピーを行い、無作為化された臨床試験を行いました。そこで明らかになったのは、不安の症状が軽くなっただけでなく不安障害に関連する二次的な合併症(うつ病など)にも改善がみられたということです

ヒューストン大学準教授、不安障害クリニックで監督を務めるピーター・ノートンによると、認知行動療法と組み合わせるのは、リラクゼーション法など他の不安障害の治療法よりも、診断横断的治療との方がより効果的であったとのことです。

不安障害 診断横断的 治療

不安障害のための診断横断的な治療法ってどんな感じ?

診断横断的な治療の鍵となるのは、複数の不安障害に共通する要因を見つけることのできる治療者です。

パニック障害であろうと、クモ恐怖症であろうと、強迫性障害であろうと同じことです。診断横断的な治療では、病名が何であるかは抜きにして、患者が不安感に苦しんでいるということだけを伝えます。不安感がどのような形で現れているかには重きを置きません。

ノートンの言うこの中心となる病状は、基本的には不安障害とうつ病の3要因モデルの構造によって定められています。(Clark and Watson, 1991)

クラークとワトソンの不安症状と抑うつの3要因とは、抑うつと不安症状に共通する構成要素(全般的なネガティブ情動)と、それぞれの構成要素(アンへドニアと生理学的な過活性化)を指します。

ノートンはこれらを参考に、ネガティブ情動が不安障害とうつ病の双方において中心となっている精神病理学的な構成要素である可能性を推測しました。この理論モデルと同じように、異なる不安障害の現れに対する治療のプロセスや内容も、同じものであるということです。

診断横断的アプローチの認知行動療法の一般的な内容には以下のようなものがあります。

心理教育

治療者は患者に対して、不安障害とはどんな感じか、なぜ起こるのか、なぜ不安感が続くのかなど、不安全般について教育します。3要因モデルにならい、不安障害やうつ病に一般的にみられるネガティブ情動についての情報も患者に与えられます。

メンタルヘルスの専門家は、患者が情動性をコントロールし、人が作りだした障害の区分から距離を置くと、それぞれの合併症が改善するということを理解しておく必要があります。

合併症とは、しばしば一次的な問題と共に現れる病理のことです。不安障害とうつ病はその一例です。実際に多くの場合、この二つはあまりに似通っているため、区別ができないことがあるのです。これを解決する方法のひとつは、これらをネガティブ情動に基づいて見ることです。

認知再構成法

不安障害の患者のほとんどが苦悩やネガティブな思考パターンに陥りがちなことはよく知られていることです。また、不安感は、危険の可能性を感じることに対する反応であることも分かっています。

不安障害の患者においては、危険に対する直感的な反応が正常にはたらいていないということが研究で示されています。彼らの思考は誇張されていたり、現実に基づいていなかったりするのです。認知の再構成を正しくトレーニングすることで、苦痛を与えるような思考を特定したり、修正したりすることができます。ソクラテス的対話を用いることで、ネガティブな思考をより現実的なものに置き換えられるようにもなります。

例えば、パニックに陥っている人は、「パニック発作が起きるのかも?」「自分は発狂してしまうのでは?」などと考えます。全般性不安障害の患者ならば、「今夜、娘が出かけたときにレイプされたらどうしよう?」などと考えます。

こういった患者のゴールは、まだ起きていないことを想像するのではなく、現実に、そしてこの瞬間に存在する事実に集中することです。たとえ患者の想像したことが起こるとしても、想像したまさにその通りに起こることはあまりありません。

不安障害 診断横断的治療

曝露反応妨害法

これは患者を恐れているものに曝露する(さらす)有効な療法です。曝露は実際に行うことも、想像上、あるいは内受容的に行うこともできます。恐れているものや避けているものに立ち向かうことによって、パニック障害の患者は頻繁に湧きあがる感情に対処する方法を学びます。

曝露によって、不安障害や不安のトリガーに心理的に慣れることができます。また、患者が逃避的な対処をやめられるという結果もあります。逃避的な対処法には、強迫性障害の思考や行動、全般性不安障害の行動、パニック障害に対して精神安定剤を用いることなどが挙げられます。

診断横断的な治療法の結論

診断横断的アプローチの治療法は素晴らしい結果をもたらしています。ノートンによると、標準的な療法に比べ、診断横断的な治療では患者により改善が見られているとのことです。また、二次的症状にもポジティブな影響が見られています。特定の障害に対して治療が行われると成功率は40パーセントであるのに対し、診断横断的アプローチでは合併症の3分の2が治癒したとされています。

全体的にみると、診断横断的な治療は患者にとって効率的かもしれません。治療者としても、同じ診断の患者グループに同時に治療を行えるため、効率的になりえます。

診断横断的アプローチによる精神病理学の観点ならば、幅広い視野をもって精神疾患を捉えることができます。ひとまとまりの障害に共通する様々な心理プロセスが集約したもの、という観点から眺めると、治療がよりホリスティックで効果的になるのです。

科学者たちが嫌悪感などの他の感情の重大性を過小評価していたと結論付けることもできます。近年の研究では、アンへドニアや恐怖心もまた、恐怖症や強迫性障害をはじめとする不安障害において重要な役割を果たしていることが分かっています。

ネガティブ情緒のある障害全般で嫌悪感がどれほどの役割を果たしているのかはまだ明らかになっていませんが、そういった障害のどれもが診断横断的に「嫌悪感への敏感さ」の範囲内にあるようにも見えます。これは一部の精神疾患グループにおいては病原学の観点から説明がつくかもしれません。

論理上は、認知行動療法には修正が必要であると新しい診断横断的プロトコルでは述べられています。それでも、これまでのところ結果はとても期待できるものです。診断横断的な治療は大人だけでなく、診断が難しいとされている子どもやティーンエージャーにも効果的です。

  • Norton, P. J. (2012). Group cognitive-behavioral therapy of anxiety: A transdiagnostic treatment manual. New York: Guilford.
  • Sandín, B.; Chorot, P.; Valiente, R. (2012). Transdiagnostico: Nueva frontera en psicología clínica. Revista de Psicopatología y Psicología Clínica. Vol. 17, N.º 3, pp. 185-203.