ジョシュア・ベル:地下鉄のバイオリニスト

23 11月, 2019
ワシントン・ポストは、人々が日常のありふれた状況の中で、美を認識することができるかどうかを調べる社会実験を実施しました。残念ながら、ほとんどの人が日常生活に合わない美しさが目の前にあっても、それに気づかないことが証明されました。この実験は、世界的に著名なバイオリニストが、地下鉄の駅構内でバイオリンを弾くというものでした。

ワシントン・ポストが行なった社会実験である「地下鉄のバイオリニスト」では、人々は目の前にあるものを実際には見ていないことを証明しました。この実験は2007年に初めて実施され、7年後に再び実施されました。

そこでバイオリンを演奏したのは、著名なバイオリニストであるジョシュア・ベルでした。この実験は、忙しい毎日を送る私たちは、美しいものを無視する能力に優れていることを証明しているかのようでした。

ワシントン・ポストは「不適切な時間に、日常の一コマの中に美が現れたとしたら、美は人々の注意を引くことができるのか?」というシンプルな質問に答えるため、この社会実験を行いました。言い換えると、人間は、予想しない状況において美しさを認識できるのかを見つける実験でした。

実験の結果、人々は実際に何かを観ずに見たり、実際に聴くことなく聞くことが示されました。見た目だけに気を取られすぎているか、または自分の考えに凝り固まっているために、枯葉の中で輝くダイヤモンドを見つけることができないのかもしれません。

「すべてのものは美しさを持っているが、誰もがそれに気づくわけではない。」

-孔子-

著名なバイオリニスト:ジョシュア・ベル

ジョシュア・ベルは、世界レベルで「最高のヴァイオリニスト」と呼ばれる奏者の一人です。1967年にインディアナで生まれました。

ジョシュアがわずか4歳の時、両親は、彼がゴムバンドを使って母親が演奏するピアノの音を真似る姿を見たと話します。ジョシュアの父親は、ジョシュアにバイオリンを購入しました。

その後、ジョシュアは7歳で初コンサートを開催しました。

現在のジョシュア・ベルは、クラシック音楽への愛情と、誰もがクラシック音楽に触れられるようにしたいという活動を行なっていることでも知られています。

彼は、ある特定の観客だけが、特定の場所でのみクラシック音楽を楽しむことができることを望むような伝統主義者ではありません。有名な人気テレビ番組「セサミストリート」では、いくつかの映画のサウンドトラックの作成をサポートしました。また、“The Red Violin”のテーマソングを演奏し、映画にはいくつかのカメオ出演を行いました。

このようなジョシュア・ベルの活動から、ワシントン・ポストは彼こそがこの社会実験にふさわしい人物だと考えたのです。

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地下鉄のバイオリニスト

この実験では、ラッシュアワーのワシントンD.C.の地下鉄駅構内で、ジョシュア・ベルが推定3億円のストラディヴァリウスで、美しいバッハの曲を演奏しました。この実験を計画者は、75〜100人がジョシュア・ベルの演奏を聴くために足を止めるだろうと推定しました。

そして、ストリートミュージシャンに変装している彼は、およそ100ドルを稼ぐだろうとも仮定しました。ちなみに、この実験の3日前にジョシュア・ベルが’開催したコンサートでは、最も安い席が100ドルでした。

実験は、2007年1月12日午前7時51分に実施されました。ジョシュア・ベルは、黒い長袖のシャツ、ジーンズ、野球帽を着用して現れました。彼はバッハの作品から演奏を始め、シューベルトのアヴェ・マリアがそれに続きました。

彼は美しい演奏を行いましたが、ほとんどの人がこの美しい演奏に足を止めることはなかったのです。

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ジョシュア・ベル 地下鉄

私たちは観たり聴いたりせず、見聞きをする

最終的に、世界的に有名なバイオリニストは、47分ほど演奏を続けました。この間、1,097人が彼のそばを通過しましたが、実際に足を止めたのはわずか6人でした。また、彼が稼いだ金額は合計で32ドル17セントでした。

ジョシュア・ベルに「この実験の中で最もイライラした瞬間はいつだったのか?」と聞くと、彼は「1曲の演奏が終わっても誰も拍手をしないとき」だと答えました。

1,097人のうち1人の女性だけが彼を有名なジョシュア・ベルだと認識しました。またある30歳の男性が、最も長い間彼の演奏に耳を傾けました。政府機関の従業員であるジョン・デイビッド・モーテンセン氏は、ベルの演奏を聞くために6分間立ち止まりました。

彼は、自分が聴くクラシック音楽は、クラシックロックだけだと話しましたが、ジョシュア・ベルの演奏は、彼が足を止めるほど美しい演奏であり「心に平和を感じた」と、記者団に語りました。

地下鉄の駅で行われたこの社会実験では、ジョシュア・ベルが演奏している間、通勤客のほとんどがその演奏に無関心でした。実際は世界的に有名な音楽家が、自分の目の前で無料で音楽を演奏していることに気づかず、そして全く気にもとめなかったのです。

ジョシュア・ベルは、多くの人が自分の演奏に興味を持たず無視して歩き去るのは、とてもガッカリする体験だったと語っています。しかし、7年後に全く同じ場所で行われた実験では、イベントとして多くの宣伝を行い、ジョシュア・ベルが地下鉄の駅構内に現れた時には、何百人もの人々が集まりました。

ジョシュア・ベルの目標は、若者とクラシック音楽をつなぐことだったので、この時は教育を目的とした演奏を行いました。最初の実験では、自分の音楽が作り出す美しさを人々が認識しなかったことにジョシュア・ベルは悲しみ、この状況を変えるために何かをしたいとずっと考えていたため、7年後の再実験は大成功を収めたと言えるでしょう。

  • García-Valdecasas Medina, J. I. (2011). La simulación basada en agentes: una nueva forma de explorar los fenómenos sociales. Revista Española de Investigaciones Sociológicas (REIS), 136(1), 91-109.