オプトグラフィー:恐ろしい19世紀の科学

19世紀の法科学者たちは、殺人犯を逮捕する新しい方法を思いつきましたが、この手法は陰鬱で謎めいた疑わしいものでした。
オプトグラフィー:恐ろしい19世紀の科学

最後の更新: 09 8月, 2021

現代史の中でも、19世紀は最も興味深い時代の1つと考えられています。社会運動、工業化、就学率の増加、科学の進歩により、多くの革新と変化が社会にもたらされました。

また、オプトグラフィーを含む、多くの奇妙な信念や科学実験が行われたのもこの時代です。

19世紀の人々は、死後の世界、シャーロック・ホームズの小説、そして史上最も悪名高い連続殺人犯の一人である切り裂きジャック(ジャック・ザ・リッパー)に熱狂的な関心を持っていました。

恐ろしい犯罪を最も「近代的」な方法で解決しようという考えから、ゾッとするような法科学的な手法を思いついたとしても、この時代であれば驚くことではないのかもしれません。

現代社会に当てはめると、ばかげた考えに聞こえるかもしれませんが、1800年代の終わりには、社会は写真をエキゾチックで、神秘的で、さらには魔法でさえあると考「崇拝」していました。

そしてこのような風潮から、写真に基づいく科学を作り出したのも当然の流れと言えるでしょう。

オプトグラフィー 19世紀 科学

オプトグラフィーとは?

オプトグラフィーという言葉は、ギリシャ語の「オプト(視覚)」と「グラフ(ライティング)」の二つの言葉に由来します。

ドイツ南西部のハイデルベルク大学の生理学教授であるウィルヘルム・フリードリヒ・キューネが、1877年に初めてこの単語を使用しました。

キューネの同僚であるフランツ・クリスチャン・ボルの独創的な理論が、この主題に対する彼の興味を最初に引き起こしたと言われています。

生理学者であるキューネは、網膜の内側には色素が存在するが、それは太陽の光の下では薄れ、暗闇で再び現れると主張しました。この発見は、法科学に革命をもたらす仮説と理論による新しい世界への扉を開きました。

キューネは、犯罪被害者や犠牲者の網膜を分析するオプトグラフィーが、殺人犯の身元を明らかにするのに役立つと確信していました。

つまり、網膜に記録された最後の画像が、犯人を見つけるために必要な手がかりを警察などの捜査員に提供すると考えられていたため、網膜を抽出し、適切な化学物質でその最後の画像を保存するという手法が取られました。

実はこれ以前にもクリストファー・シェーナー修道士が、100年以上前にオプトグラムと呼ばれる網膜光像を最初に分析しています。修道士がカエルを解剖していた時、カエルが死ぬ前に、カエルの網膜に最後の画像が「記録」されることを発見したのです。

この発見は修道士に大きな影響を与え、論争の的となりました。

革新の残酷さ

キューネの着眼点や意図は良かったかもしれませんが、その手法は良いものではありませんでした。キューネは自分の研究のために、道徳的に疑わしく残酷で、不気味といえる技術を採用したのです。

そして自分の行なっている作業や実験について何の不安も持っていない様子であり、オプトグラフィーを使って、当時の世界を変えようとしていました。

キューネは、実験に小さなカエルとウサギを使用しました。これらの動物に長期間にわたって非常に明るい光を見させた後、首を切り落としました。

その後、すぐに目を取り除き、暗い閉鎖された部屋に目を持ち込み、この部屋で網膜を切り取った後、色素を保存するための化学溶液に固定しました。

「さらに10以上の解決法を作成することなく、科学が問題を解決することはありません。」

-ジョージ・バーナード・ショー

これらの残虐行為は、実験が成功していなければそれほど一般的にはなりませんでした。しかしキューネは、最もよく知られているウサギの実験で、動物が最後に見た画像を完全に捉えることに成功したと言われています。

キューネはオプトグラフィー実験のために無数の動物を殺しました。現在このような実験が行われたら大きな問題になるでしょうが、19世紀は医学や生物学、そして科学の分野では多くの革新的な進歩が見られていたため、動物への虐待や動物の苦しみについて考える人はほとんど存在しなかったのです。

人体実験

1880年、キューネは念願だった人体実験を行いました。

地元の刑務所では、家族全員を殺害した罪により死刑となった囚人が斬首刑となったため、キューネは初めて人間の網膜を実験することができました。

キューネは、色素分析の結果により、斬首刑の執行装置であるギロチンの刃の画像が明らかになったと主張しました。同時代の専門家たちは、キューネの主張を否定し、別の画像である可能性を示唆しました。

しかし結局のところ、キューネの最初の主張が勝ったのです。

人体実験の1年後、キューネは「Observations for Anatomy and Physiology of the Retina(解剖学と生理学における網膜の観察)」と呼ばれる本を出版しました。

この本の中でキューネは、自分の実験が成功したと主張しましたが、彼の主張を裏付ける科学的証拠はありませんでした。

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オプトグラフィーの進化

キューネの実験を裏付ける科学的根拠や証拠が見つからないため、法科学者と警察は犯罪事件を解決するためにオプトグラフィーを使用するのを中止しました。

しかし、多くの人の想像力をかきたてたオプトグラフィーが、何年にもわたって都市伝説になるのは止められませんでした。

オプトグラフィーは、無数の本、映画、テレビ番組に影響を与えました。ジョゼフ・ラドヤード・キップリングやジュール・ガブリエル・ヴェルヌなどの有名な作家も、オプトグラフィーというアイディアを自分の物語に取り入れています。また、Dr.Who(ドクター・フー)などの有名なテレビ番組にも取り入れられました。

人間はオプトグラフィーの不気味さに魅了され、罪悪感の喜びを我慢することができませんでした。

私たち人間は、賢明で文明的な方法で自分たちの持つ能力を使用する責任があります。

科学という分野はいまだに多くの秘密が隠されている神秘的なもので、私たちは常に新しい発見を求めています。科学に進歩や発見に対する将来へ責任は私たちの手にかかっているのです。


このテキストは情報提供のみを目的としており、専門家との相談を代替するものではありません。疑問がある場合は、専門家に相談してください。