精神分析における転移と逆転移について

21 5月, 2020
患者と分析医のやり取りは、可能な限り自由に無意識を泳がせることのできるスペースを生み出します。これこそが患者と分析医の間に動力が生まれ、転移と逆転移が作り出される場所なのです。

「転移」と「逆転移」は、精神分析において欠かすことのできない用語です。どちらも臨床診療において基礎となるものであり、二つの異なる概念であるとはいえ、転移と逆転移は互いに切り離すことができないものであることは明らかです。

患者と分析医のやり取りは、可能な限り自由に無意識を泳がせることのできるスペースを生み出します。これこそが患者と分析医の間に動力が生まれ、転移と逆転移が作り出される場所なのです。

転移とは?

転移という用語は精神分析でしか使われないわけではありません。この言葉にはある場所から別の場所への置換や転用といった意味合いも含まれます。これは医師と患者の間にも、生徒と教師の関係性にも見られる現象です。

精神分析に関しては、幼少期の空想の再現として理解されており、これが分析家が潜在的な問題を診断するための手助けとなります。転移とは、個人が現在のある事柄に、それ以前に経験した事柄を重ねて捉える現象を意味しており、そこには治療という目標があります。

初めの頃、フロイトは転移を治療過程における大きな障壁であると考えていました。彼はこれを、無意識下の思考や感情を明らかにすることへの患者の抵抗である、と見なしたのです。しかし、自身の役割がその抵抗を超越しているという事実にフロイトが気づくまでにそれほど時間はかかりませんでした。

フロイトは1912年の論文『転移の力動性』の中でこのように逆説的な現象として転移を描写しています。つまり、治療への抵抗の元になりかねないという事実があるにも関わらず、分析家の方にとっても転移は不可欠なものだということです。彼は、優しさや愛情といった陽性転移を、敵意や攻撃的な感情に満ちた陰性転移と区別しています。

“その患者は、全体的に忘れ去られたものや抑圧されたものについては何も覚えていないが、彼は確かにこれに基づいて行動している。それを記憶として再現してはいないが、行動としては再現しているのだ。もちろん彼は自分でも気づくことなくこれを行なっているのだ”

-ジークムント・フロイト-

転移という概念に関する、その他の精神分析家による貢献

フロイト以降、転移というテーマについての論文が多く執筆されてきました。これらはこの課題全体を再考するものでありながらも、同時にこの現象に関するオリジナルの理論との比較も行なっています。全ての論文で一致して主張されているのは、転移とはセラピー中の分析家と患者との関係性において起こるものだという点です。

メラニー・クラインは、転移を患者の無意識下の空想が再現されたものだ、と考えました。精神分析の間、患者は自らの心的現実を呼び覚まします。患者は、無意識の空想を蘇らせるための手段として分析家を使用するのです。

ドナルド・ウッズ・ウィニコットによれば、精神分析における転移という現象は、母子間の結びつきのレプリカとして理解できるとされています。このため、厳格な中立性を放棄する必要性が出てくるのです。患者が分析医を移行対象としてどう利用するかによって、転移と解釈に新たな次元が付与されます。これは1969年の論文『対象の使用』で説明されており、ここで彼は患者には自身の存在を再確認するために治療者との結びつきが必要になるのだ、と主張しています。

転移のための結びつき

前述の通り、転移は分析医の人物像を用いて幼少期の空想を再現することと関わっています。これを引き起こすために、両者は転移のための結びつきを確立しなければなりません。

この結びつきを形成するために、患者はまず自らの身に起こったことと向き合いたいという彼自身の願望を受け入れなければならず、その後で、自身に何があったのかを知っているはずの分析医と会うことになります。ラカンはこの、患者に関することを知っている、とされる相手(分析医)のことを「知を想定された主体」と呼びました。このようにして両者はその関係性における最初の段階の信頼を確立し、それが分析の道筋を開いていくのです。

トラップを避ける

しかし、この過程を通して分析医が注意を払い、対応しなければならない問題が折に触れて出てくることがあります。なんと、患者が分析医に恋をしている兆候を見せる可能性があるのです。患者たちが定期的に自分がどれくらい魅力的であるかを確認し、分析医を恋人と思い始める恐れがあります。

また、患者が分析医の言葉に何の疑問もなく従ってしまうというトラップに陥る危険性もあります。そしてもう一つ注意しなければならないのが、全く労力をかけずにごく短期間で改善が見られた場合です。さらに、約束の時間より遅れて来ることが頻繁にある、別のセラピストの話をあまりにもたくさんする、などのもう少し細かな兆候も見逃してはなりません。

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もちろん、問題が常に患者側にあるわけではありません。逆転移的な兆候が見られる場合もあるのです。分析医もまた、よく注意を払い、自分自身を分析しなければなりません。分析医が患者と口論を始めてしまったり患者から好意を得たいという衝動を抱いてしまうようであれば、かなり警戒すべきです。

分析医が患者についての夢を見てしまったり、患者に過度の関心を抱いてしまうこともあります。適切な距離を保てないことや、患者へ強烈な情緒的反応を持ってしまうことも危険な兆候です。

逆転移とは?

フロイトは「逆転移」という言葉を1910年の論文『精神分析療法の将来の見通し』の中で紹介しています。彼はこの現象を患者から発せられる刺激への分析医が見せる情緒的反応、と説明しています。この情緒的反応は、分析医の無意識下の感情に対して衝撃が与えられた結果起こるものです。

分析医は、自分自身が治療の障害となる可能性もあるため、この点に警戒心を持ち続けなければなりません。しかし、逆転移のなかで抱かれた感情全ては、もしそれが分析医とは何の関わりもないものだとしても患者に再帰してしまうだろう、と主張する人々もいます。

これは、分析医の中に患者が見出した感情が患者に再帰した後、両者間の関係性の中で起こっていることに対するより深い自覚と理解を生み出す感情とも言えるかもしれません。そしてこれは、その瞬間まで患者がはっきり表に出していなかった感情です。

例えば、患者が幼少期の一場面を再現すると、分析医は悲しみを感じる可能性があります。しかし、患者がこれを怒りであると解釈してしまう恐れがあるのです。その後分析医が患者に対して抱いている感情を示して反応すれば、患者は怒りの裏に隠された本当の感情に到達することができます。

転移と逆転移の関係性

一方では、逆転移はその方向性、つまり分析医から患者へ向けられる感情によって定義することが可能です。他方では、個人の反応が相手から受け取る刺激から独立しているわけではないことの証拠となるバランスとして定義することもできます。ここでは逆転移は転移の中で起こる現象と関わっており、一人がもう一方の人物に影響を与えることになります。

従って、分析医が逆転移に準じて行動を決めてしまうと、逆転移は障害となり得ます。愛や憎しみ、拒絶、怒りなどといった患者に対する感情に分析医が気を取られてしまう可能性があるからです。こうなると、分析医は本来遵守すべき節制や中立といった鉄則を破ってしまったということになります。患者を助けるどころか、傷つけてしまっているのです。

患者は自身の経験を伝えようとします。しかし分析医は自分の感情が患者の発言に影響してしまわないようにしながらこれに反応を返さなければなりません。患者は空想を再現し、実行します。とは言えこれは意識的に行われているわけではなく、だからこそ治療の過程では解釈が重要な役割を果たしているのです。

転移と逆転移の働き

精神分析は、患者から分析医への転移のための結びつきを前提として行われます。そして転移と逆転移とのこの結びつきは、感情や無意識下の願望、我慢や不寛容などが現れ出る場なのです。

この転移による関係性があるおかげで、分析医は必要な介入を行うことができるようになります。この介入は解釈や非難をすること、あるいはセッションを終わらせるなどの反応かもしれません。転移による結びつきは分析全体を通して非常に重要なのです。

精神分析という関係性の中で、分析医は厳密に中立性を保たねばなりません。分析医は自らの感情や人生の経験談が何かに影響を及ぼしてしまう事態を避ける必要があるのです。言ってみれば、分析医は患者が自身の無意識下の思考や感情を転送できる空白の板のような存在にならなくてはならないということです。